サプライチェーンマネジメント(SCM)の課題は、「在庫は多いのに欠品も出る」「需要の見込みが部門ごとに違う」といった形で、社内の判断のずれとして表に出ます。この記事では、フリーランスのコンサルタントとしてSCM改善の案件に関わる方に向けて、現場でよく起きる5つの詰まりを整理します。5つの詰まりとは、部門ごとの在庫判断、需要情報の共有不足、原因の切り分け不足、取引先との連携、成果を測る物差しの欠如です。各章は単独でも読めるようにしてあり、案件の初期ヒアリングで確認する観点としてそのまま使えます。
サプライチェーンマネジメントの課題と解決の考え方|よくある5つの詰まり
SCMで企業がつまずく典型的な課題
SCMでつまずく企業の典型は、部門ごとに在庫の判断基準が異なることと、需要の情報が部門や取引先の間で共有されていないことの2点です。
SCMとは、調達・生産・物流・販売をまたいで、モノと情報の流れを全体で最適化する管理の考え方です。個々の部門が自分の持ち場で合理的に動いていても、つなぎ目に判断のずれがあると、全体では在庫過多と欠品が同時に起こります。コンサルタントが最初に見るべきなのも、設備や人員より、このつなぎ目の判断がどう決まっているかです。
部門ごとの在庫判断
部門ごとの在庫判断とは、営業・生産・物流・財務がそれぞれの評価指標に合わせて、別々に在庫量を決めてしまう状態を指します。
営業部門は欠品による機会損失を避けたいため、在庫を多めに持ちたいと考えます。生産部門は段取り替えの回数を減らすため、まとめて作りたいと考えます。物流部門は保管スペースと輸送効率を重視し、財務部門は在庫金額の圧縮を求めます。どの主張にも筋が通っているため、誰も間違っていないまま、在庫は売れない品目に偏り、売れる品目は足りなくなります。
実務では、この状態を「誰が在庫の最終責任を持つのか」という問いで確認します。答えが部門ごとに違う、あるいは答えられる人がいない場合は、SCMの詰まりの入口に立っていると考えてよいでしょう。

需要情報の共有不足
需要情報の共有不足とは、営業の見込みや販促の計画、取引先の発注の動きが、生産や調達の計画に届いていない状態です。
たとえば営業が来月の大型キャンペーンを把握していても、その情報が生産計画に反映されなければ、直前になって緊急の増産や空輸が発生します。逆に、取引先が在庫調整のために発注を絞っていることを知らずに、従来どおり生産を続ければ、過剰在庫になります。
需要の小さな変動が、川上に向かうほど大きく増幅される現象は「ブルウィップ効果」と呼ばれます。各段階が自分の手元の情報だけで安全在庫を上乗せすることが原因の1つとされ、需要情報を共有することが対策の基本になります。情報が届かない原因は、システムの不備だけでなく、部門間で情報を出す動機がないことにもあるため、仕組みと運用の両面で確認する必要があります。
課題の見つけ方
課題の見つけ方の基本は、在庫と欠品が同じ時期に同じ組織で起きていないかを確かめ、リードタイムを工程ごとに分けて待ち時間を見つけることです。
現場の担当者は、目の前の問題を「発注が遅い」「予測が外れる」といった個別の言葉で語りがちです。そのまま対策を打つと、症状を1つずつ潰すだけで終わります。そこで、データで事実を並べてから原因を絞る順序にします。
在庫と欠品の同時発生を手がかりにする
在庫と欠品が同時に起きている場合、問題は在庫の総量ではなく、配置と判断のしかたにある可能性が高いと考えられます。
確認の方法は単純で、品目と拠点の組み合わせごとに、在庫日数(在庫数量を1日あたりの出荷数量で割った値)と欠品の回数を並べます。次の表は、説明のための架空の例です。
品目 | 拠点 | 在庫日数 | 直近3か月の欠品回数 | 読み取れること |
|---|---|---|---|---|
品目A | 東日本拠点 | 62日 | 0回 | 在庫が過剰で、動きが鈍い |
品目A | 西日本拠点 | 8日 | 3回 | 東から西への融通が働いていない |
品目B | 東日本拠点 | 15日 | 2回 | 発注点が実需より低い可能性がある |
品目Aのように、同じ品目で拠点によって在庫日数が大きく違う場合は、拠点間の在庫移動のルールや、各拠点の発注が独立していることが原因として疑われます。品目Bのように、在庫日数が短いのに欠品が出る場合は、発注点や安全在庫の見直しが論点になります。総量が多いか少ないかではなく、どこに偏っているかを見ることが切り分けの入口です。
リードタイムの内訳の分析
リードタイムの分析では、受注から納品までの日数を工程ごとに分け、作業している時間と待っている時間を区別して見ます。
分け方の一例は、受注処理、調達、製造、出荷準備、輸送、検収の6工程です。工程ごとの日数を並べると、作業時間そのものより、承認待ちや入荷待ち、まとめ出荷のための待機といった待ち時間が大半を占めているケースが珍しくありません。待ち時間は設備投資をしなくても、ルールの見直しで縮められることが多く、改善の初手に向いています。
ここまでの切り分けを、課題の兆候と最初に見るデータの対応として一覧にすると、案件の初期に確認する項目を共通の物差しで整理できます。次の表は、編集部が実務で用いられる観点をもとに整理した判断軸です。
兆候 | 最初に見るデータ | 疑う論点 | 最初に話を聞く相手 |
|---|---|---|---|
在庫過多と欠品が併発する | 品目別・拠点別の在庫日数と欠品回数 | 在庫の配置、発注点の設定 | 在庫を管理する物流・生産部門 |
緊急の増産や特急輸送が多い | 営業の見込みと出荷実績の差 | 需要情報の共有のしかた | 営業企画、生産管理 |
納期遅れが特定の工程で起きる | 工程別のリードタイムと待ち時間 | 承認ルール、ロットのまとめ方 | 該当工程の責任者 |
数字が部門ごとに食い違う | 品目コード・拠点コードのマスタ | データ定義の不一致 | 情報システム部門 |
取引先の納期が安定しない | 納期遵守の実績と事前通知の有無 | 情報共有の範囲、発注の平準化 | 調達部門、取引先の窓口 |
課題別の解決アプローチ
解決アプローチは、会議と運用で需給のずれをそろえる施策と、システムでデータをつなぐ施策の2系統に分けて考えると整理しやすくなります。
順序としては、運用の取り決めを先に固め、そのあとでシステムに載せる形が安定します。決まっていないルールをシステムに実装しても、データがそろうだけで判断は変わらないためです。
需要と供給の調整会議
需要と供給の調整会議とは、営業・生産・物流・財務が毎月集まり、1つの数字に基づいて需給の差を確認して決める場です。
議題の流れは、需要の見立て、供給の制約、差の確認、合意と実行の4段階です。営業が需要の見立てを出し、生産と物流が供給できる量と制約を出し、差が出た品目について増産・在庫の融通・販売の調整といった対応を決めます。部門ごとに別々の数字で議論するのを避け、会議で使う数字を1つに絞ることが最初の約束事になります。
運営のコツは、決定権のある人が出席し、会議の終わりに「誰が、何を、いつまでに」を残すことです。報告だけで終わる会議は、数回で形骸化します。

システム連携の見直し
システム連携の見直しでは、新しいツールの導入より先に、品目コードや拠点コードの統一とデータの更新頻度の確認を行います。
よくある落とし穴は、販売管理・生産管理・在庫管理のシステムが別々で、品目コードの付け方が微妙に異なる状態です。この状態では、部門ごとに集計しても数字が合わず、会議が数字の突き合わせだけで終わります。次に、在庫データの更新が日次か週次か、Excelでのつなぎ作業を誰がいつ行っているかを確認します。人の手で橋渡しをしている箇所は、属人化と遅延の温床です。
優先順位は、業務ルールの確認、データの定義の統一、ツールの選定の順です。ツールの比較から入ると、機能の議論に時間を取られ、本来の課題が置き去りになります。SCMの分析の基本はサプライチェーン分析の始め方でも整理しています。
取引先を巻き込む際の進め方
取引先を巻き込む際は、共有する情報の範囲を最初に合意し、対象を絞った小さな取り組みから始めて信頼を積み上げる進め方が現実的です。
自社の中でいくら改善しても、取引先の納期や発注が不安定であれば、効果は限定されます。一方で、情報を求められる取引先にも事情があるため、一方的な依頼は断られやすくなります。
情報共有の範囲の合意
情報共有の範囲の合意では、何を、どの頻度で、どの粒度まで共有するかを、取引先と文書で確認します。
共有の対象は、需要の見込み、在庫の水準、納期の予定といった項目から選びます。最初から全項目を求めず、先に相手にとって利益のある項目、たとえば数週間先の発注見込みを提供して、相手の生産計画の精度が上がる形にすると、協力を得やすくなります。取引条件や秘密保持に関わる内容は、契約の見直しを伴うことがあるため、弁護士などの専門家に確認したうえで進めてください。
コンサルタントが関わる場合は、契約の形態にも注意が必要です。コンサルタントの業務委託は準委任が多く、業務の遂行に対して報酬が支払われ、成果物の完成義務は負わないのが一般的です(一般的な目安であり、個別の契約内容は案件ごとに確認が必要です)。取引先との調整をどこまで担うのか、その結果をどう評価するのかは、契約の段階で依頼元と範囲をそろえておくと、後のトラブルを避けられます。
長期的な関係の作り方
長期的な関係の作り方の要点は、単発の値引きや納期の交渉ではなく、双方に利益のある情報の交換を継続して、複数年の視点で取引を設計することです。
物流の領域は、その必要性がわかりやすい例です。NX総合研究所の分析では、対策を講じない場合、2024年に営業用トラックの輸送能力の14.2%が不足し、2030年には2024年問題の影響と合わせて34.1%(約3分の1)が不足する可能性があると推計されています。輸送の担い手が減る前提では、取引先との関係は、目先の運賃の比較より、安定して運んでもらえる関係を維持できるかが重要になります。
国土交通省の資料によれば、令和10年度までに、5割の運行で1運行当たりの荷待ち・荷役等時間を計2時間以内に削減する目標が示されています。荷待ちの削減は荷主側の協力が欠かせないため、出荷の時間帯の調整や予約の仕組みづくりといった取り組みを、物流事業者と一緒に進める余地があります。関係づくりの基本は、相手の負担を減らす提案を先に出し、共有した情報が実際に役立ったことを数字で返すことです。
SCM改善プロジェクトの成果の測り方
成果の測り方は、在庫回転や欠品率といった数本の指標を決め、改善前の水準を記録したうえで、月次で追う形が基本です。
SCM改善は、効果が出るまでに数か月かかるのが一般的です。指標が決まっていないと、終了時に「良くなった気がする」という感覚的な評価しかできず、次の投資判断につながりません。契約が準委任であっても、依頼元と合意した目標指標があれば、支援の価値を説明しやすくなります。
在庫回転や欠品率の追い方
在庫回転や欠品率は、定義を最初に固定し、改善前の値を基準として同じ計算方法で追い続けます。
在庫回転率は、売上原価を平均在庫で割った値で、高いほど在庫が早く動いていることを表します。欠品率は、受注のうち在庫不足で応えられなかった割合です。2つの指標は互いに引っ張り合う関係にあり、在庫を減らせば回転は上がりますが、欠品は増えやすくなります。必ずセットで見て、片方だけの改善を成果として報告しないようにします。次の表は、説明のための架空の例です。
指標 | 改善前 | 3か月後 | 見方 |
|---|---|---|---|
在庫回転率(年換算) | 6回 | 7回 | 上がっても欠品率が悪化していないかを確認する |
欠品率 | 4% | 3% | 回転率とセットで改善しているかを見る |
納期遵守率 | 90% | 94% | 取引先との連携の成果を測る指標になる |
指標は多ければよいわけではありません。経営層に報告する指標は3つ前後に絞り、現場の改善に使う細かい指標は別に持つと、報告が散らかりません。

定期レビューの設計
定期レビューの設計では、頻度を月次に置き、見る順序と、基準を外れたときの対応をあらかじめ決めておきます。
レビューの順序は、まず指標の推移を確認し、次に基準を外れた品目や拠点の原因を確認し、最後に次月の対応を決める流れが扱いやすい形です。基準を外れたときの対応を事前に決めておけば、数字が悪化するたびに議論を最初からやり直す必要がなくなります。レビューの参加者は、調整会議の参加者と重ねると、運営の負担が増えません。
プロジェクトの終了時には、レビューの運営をだれが引き継ぐのかを決めておきます。支援が終わったあとに会議が止まると、数か月で元の状態に戻りやすいためです。在庫と欠品が同時に起きる問題は、配置と判断の問題であり、判断の場と物差しが残って初めて解消へ向かいます。
SCM改善の案件は、製造や流通・小売の企業が依頼元になることが多く、月額単価の目安は、製造で140〜200万円、商社・流通・小売で120〜170万円とされています(100%稼働換算、2026年時点の目安)。大手企業では、与信や購買規定の都合から個人と直接契約せず、エージェントなどの法人を挟んだ3者間契約になるケースが多く、実際の条件は案件ごとに異なります。案件の探し方は独立コンサルタントの案件獲得完全ガイド、事例のイメージはサプライチェーンマネジメントの事例解説で整理しています。
出典・参考情報
- 株式会社NX総合研究所「改めて『物流の2024年問題』の理解と対応を考える①」(2026-10-06参照)
- 国土交通省 物流・自動車局「物流2024年問題と物流革新」p.29(2025-01-15、2026-10-06参照)
本記事は2026年10月時点の情報に基づく一般的な解説です。表中の数値は説明のための架空の例であり、実在する企業の実績ではありません。契約・取引条件に関わる判断は、弁護士などの専門家にご相談ください。最終更新日:2026年10月6日。
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