サプライチェーンマネジメント(SCM)の改善を任されたものの、どこから着手すればよいか整理できずに悩んでいませんか。この記事では、SCM改善で成果を上げた企業に共通する取り組みを「可視化」「需要予測」「部門間連携」という3つの型に整理し、特定企業の内部情報に頼らず自社で再現できる打ち手として紹介します。
サプライチェーンマネジメント(SCM)の成功事例に学ぶポイント
サプライチェーンマネジメントの改善、何から手をつければいいか悩んでいませんか
SCM改善が停滞する原因の多くは、可視化不足・需要予測の精度・部門間連携という3つの論点のいずれかに集約されます。
サプライチェーン全体の効率化を掲げてプロジェクトを立ち上げても、対象範囲が広すぎて優先順位を決められないという声はよく聞かれます。調達・生産・物流・販売という複数部門にまたがるテーマであるため、どこか1部門だけの改善に着手しても全体の成果につながりにくいという事情も背景にあります。押さえておきたいのは、SCM改善の論点は業種を問わずおおむね共通しているという点です。次の章以降で、その論点を整理していきます。
現場でよくある課題
現場では在庫の欠品と過剰在庫が同時に発生し、原因の所在について部門間で認識がずれている状態が典型的です。
営業部門は欠品による機会損失を懸念して発注量を積み増したい一方、在庫管理部門は保管コストの観点から在庫を圧縮したいと考える、という構図はどの業種でも起こりやすい傾向があります。公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)が2025年度に実施した会員アンケート(法人会員1,099社・個人会員66名が対象、回答347名)では、「物流コスト適正化」が57.3%で課題の首位となり、2024年度調査の53.4%からやや増加しました。2位は「DXへの対応」で30.3%となっており、コストと情報システムの両面が同時に課題として挙がっている状況がうかがえます。この2つが同時に上位に来ること自体、可視化・情報連携の遅れがコスト増加に直結しやすいという傾向を示していると考えられます。
サプライチェーンマネジメント(SCM)とは
SCMとは、調達から生産・物流・販売までの情報を共有し、供給網全体を最適化する経営管理の手法です。
基本的な考え方
SCMの核心は個別部門の最適化ではなく、供給網全体を通じた情報共有と全体最適にあります。
IT用語辞典を運営するe-Wordsでは、SCMを「自社内あるいは取引先との間で受発注や在庫、販売、物流などの情報を共有し、原材料や部材、製品の流通の全体最適を図る管理手法」と定義しています(e-Words「SCM」2026-09-10参照)。原料メーカーから部品メーカー、完成品メーカー、物流企業、卸売店、小売店に至るまで多数の企業が関わる一連の流れを、一つながりの供給網として捉え直す点が、SCMという考え方の出発点です。ある工程だけを効率化しても、前後の工程にしわ寄せが生じれば全体としての効率は上がりません。SCMは「部分最適の積み上げでは全体最適に届かない」という構造的な問題に対する処方箋として位置づけられます。
経営における位置づけ
SCMはもはや物流部門だけの課題ではなく、事業継続とコスト構造を左右する経営アジェンダとして扱われています。
JILSの会員アンケートでも、コスト最適化とDX対応が課題の上位を占めており、SCMが現場改善のテーマにとどまらず経営レベルの投資判断を伴うテーマになっていることがうかがえます。加えて、サプライチェーンの目が届く範囲そのものが経営リスクになっている実態も報告されています。2025年版ものづくり白書の内容を解説したDOORS DX(brainpad)の記事によると、製造企業に自社が把握しているサプライチェーンの範囲を尋ねたところ、上流・下流とも直接取引先および2〜3次先までしか把握できていない企業が9割強に上ったとされています(brainpad「ものづくり白書2025のポイント解説」2025-07-31公開)。3次先より先で起きた災害や供給停止が、把握できないまま自社の調達に影響する可能性があるということです。この可視化の限界こそ、SCMが経営課題として扱われる理由の一つといえます。

SCM改善のよくある論点
SCM改善の論点は大きく分けて、可視化・情報連携の遅れと、需要予測・在庫最適化の精度不足の2つに集約されます。
可視化・情報連携の課題
部門や拠点ごとにデータ形式が異なるため、供給網全体を横断した状況把握ができていない状態が続きやすい傾向があります。
受発注・在庫・生産進捗といった情報が部門ごとに異なるフォーマットや異なるシステムで管理されていると、ある部門で発生した遅延や欠品の兆候が他部門にリアルタイムで伝わりません。結果として、需要側の変化に生産や調達が追いつかず、欠品と過剰在庫が交互に起こるという状態が繰り返されます。可視化の遅れは自社内の情報連携だけでなく、取引先を含めた供給網全体に及ぶ課題だと考えられます。
需要予測・在庫最適化の課題
需要予測の精度向上に向けたデジタル活用は道半ばで、効果を実感できている企業はまだ少数派です。
PwC Japanが2025年4月に実施した「サプライチェーンにおけるAI活用実態調査」(建設・自動車・電機・食品・卸売小売など幅広い業種の課長級以上506名が対象)によると、需要予測や在庫管理を含むサプライチェーン領域でAIを「導入済み」と回答した企業は11%、「試験導入中」を合わせても25%にとどまりました。さらに、AIを導入した企業のうち「期待どおりまたは期待以上の効果」を得られたと回答した割合は全体の20%で、米国企業は53%がAI活用と回答しており、差が大きいとされています。需要予測の精度が上がらなければ在庫最適化も進まないという構造にあるため、この2つの課題は一体として扱う必要があります。
成功パターンの類型化
SCM改善で成果を出した企業の取り組みは、可視化・需要予測・部門間連携という3つの型に整理できる傾向があります。
コンサルタントの歩み編集部が公開情報をもとに独自に整理したところ、特定の業種や企業規模を問わず、成果につながった取り組みには共通する型が見られました。個々の企業の内部情報ではなく、再現性のある打ち手として3つのパターンに分けて紹介します。
型 | 主な打ち手 | 参考となる数値 |
|---|---|---|
可視化・情報連携 | 受発注・在庫・生産進捗データの一元化 | 自社の可視範囲が2〜3次先までの企業が9割強 |
需要予測精度向上 | 需要予測ロジックの見直しと発注適正化 | 実証事業で追加発注58%削減 |
部門間連携の仕組み化 | S&OPによる営業・生産・調達のすり合わせ | JILS「需要予測研究会」がS&OPの起点と位置づけ |
可視化・情報連携で成果を出したパターン
受発注・在庫・生産進捗のデータを1つの基盤に統合し、部門横断で同じ数字を見る体制を作った企業で成果が出やすい傾向があります。
このパターンに共通するのは、部門ごとに個別最適化されていたExcelや基幹システムのデータを、SCM向けのプラットフォームやBIツールに集約し、在庫状況や納期遅延の兆候を関係者が同じ画面で確認できるようにした点です。情報が届くタイミングのズレが解消されることで、欠品や過剰在庫の兆候に早期に気づけるようになり、対応のリードタイムが短縮される傾向があります。可視化基盤の整備は初期投資を伴いますが、自社の可視性が2〜3次先で止まっている企業が9割強を占める中では、まず自社内の情報連携を整えることが着手点として現実的です。
需要予測精度向上で成果を出したパターン
需要予測に基づいて発注ロジックを見直した実証事業では、追加発注が58%削減されるという結果が報告されています。
経済産業省が令和5年度に有限責任監査法人トーマツへ委託した流通・物流の効率化に関する実証事業では、小売業を対象に需要予測技術を用いた発注適正化を検証しています。新商品・販促商品の発注リードタイムを見直した結果、追加発注が58%削減され、卸売側の在庫も30.8%圧縮されたと報告されています。需要予測の精度が上がることで、欠品を恐れた過剰発注が減り、在庫と発注業務の両方が同時に改善されるという傾向が読み取れます。
部門間連携の仕組み化で成果を出したパターン
需要予測を軸に営業・生産・調達の計画をすり合わせるS&OPの仕組みを持つ企業で、部門間の対立が起きにくい傾向があります。
S&OP(Sales and Operations Planning)とは、需要予測を起点に営業・生産・調達の計画を月次などの周期ですり合わせる経営管理の仕組みです。JILSが運営する「需要予測研究会」でも、需要予測をS&OPを効果的に推進するための起点と位置づけており、需要予測の精度向上が経営管理そのものへの貢献につながるという考え方が示されています。この仕組みを持つ企業では、需要予測の数字を共通言語として営業・生産・調達が同じ場で計画をすり合わせるため、部門ごとに異なる思惑で発注量が積み上がるという状態が起きにくくなる傾向があります。

注記
本記事で紹介する成功パターンは公開情報をもとに一般化した傾向であり、個別プロジェクトでの成果を保証するものではありません。自社への適用にあたっては、専門家への相談もあわせて検討することをおすすめします。

SCM改善プロジェクトを進める際のポイント
SCM改善は現状把握と課題設定を丁寧に行い、関係部門を早期に巻き込むことで成功確率が高まる傾向があります。
現状把握・課題設定の進め方
着手前に、供給網のどこで情報が途切れているかを部門横断で棚卸しすることが出発点になります。
いきなり全社的なシステム刷新に着手するのではなく、まずは受発注・在庫・生産進捗のデータがどの部門でどのように管理され、どこで他部門に伝わらなくなっているかを棚卸しすることが有効です。この棚卸しを通じて、可視化の課題なのか、需要予測の精度の課題なのか、それとも部門間の合意形成の課題なのかを切り分けられます。3つの成功パターンのどれに近いかを見極めることで、投資すべき領域の優先順位がつけやすくなります。
関係部門を巻き込む進め方
営業・生産・調達といった関係部門を計画策定の初期段階から巻き込むことが、施策の定着を左右します。
SCM改善は情報システムの導入だけで完結せず、運用ルールや評価指標を変える取り組みでもあるため、関係部門が「決まったことを後から知らされる」状態になると定着が進みにくくなります。現状把握の段階から営業・生産・調達の担当者を交えて課題を共有し、S&OPのような定例のすり合わせの場を設計段階から組み込んでおくと、施策が現場の運用に落ちやすくなる傾向があります。
独立コンサルタントがSCM案件に関わる視点
SCM改善プロジェクトでは、可視化・需要予測・部門間連携のいずれかに強みを持つ独立コンサルタントの需要があります。
求められる役割・スキル
特定システムの導入経験に加えて、部門間の利害を調整しながら課題を整理する推進役としての役割が求められます。
SCM改善プロジェクトでは、需要予測モデルの構築やBIツールの導入といった専門スキルに加えて、可視化基盤を整える段階から関係部門の合意形成を担う改善プロジェクトの推進役としての立場を求められる場面が少なくありません。独立コンサルタントがこうした案件に関わる経路としては、発注企業側の与信や機密保持の都合から個人と直接契約するケースは限られており、エージェントを介した3者間契約が実務上の基本ルートになっているという傾向があります。案件を探す段階から複数のエージェントに登録し、非公開案件を含めた選択肢を広げておくことが現実的な進め方とされています。
まとめ:成功パターンから自社の打ち手を考える
可視化・需要予測・部門間連携という3つの型のうち、自社がどこでつまずいているかを見極めることが最初の一歩です。
本記事では、SCM改善で成果を出した企業に共通する取り組みを「可視化・情報連携」「需要予測精度向上」「部門間連携の仕組み化」という3つのパターンに整理しました。特定企業の内部情報に頼らずとも、自社の現状把握を丁寧に行えば、どの型に近い課題を抱えているかは見えてきます。まずは受発注・在庫・生産進捗のデータがどこで途切れているかを棚卸しし、関係部門を早期に巻き込みながら優先順位をつけて着手することが、SCM改善プロジェクトを前に進める現実的な道筋になります。
関連記事で理解を深める
業務改善の進め方や推進役の働き方を扱った関連記事とあわせて読むことで、SCM改善への理解が深まります。
本文中で触れたSCM以外の改善プロジェクトにも応用できる考え方として、業務改善の進め方と合わせて読むもあわせてご覧ください。サイドバーの関連記事もご参照ください。
出典・参考情報
- IT用語辞典 e-Words「SCM(サプライチェーンマネジメント/サプライチェーン管理)とは」(2026-09-10参照)
- DOORS DX(brainpad)「ものづくり白書2025のポイント解説」(2025-07-31公開・2026-09-10参照)
- PwC Japan「2025年 サプライチェーンにおけるAI活用実態調査」(2026-09-10参照)
- 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)「JILS会員アンケート-物流コスト適正化(物流コスト改善)が課題のトップ」(2026-09-10参照)
- sinops「経済産業省、物流改善に向けた3つの実証実験の成果報告」(2024-03-29掲載・2026-09-10参照)
- 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)「需要予測研究会」(2026-09-10参照)
本記事は2026年9月時点の情報に基づいています。市場状況・各社の公表データは変動するため、最新情報は各出典元にてご確認ください。
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