要件定義書の具体例から学ぶ書き方のポイント

要件定義書の具体例から学ぶ書き方のポイント

要件定義書は、システムで「何を作るか」を発注者と開発者の間で合意するための文書です。項目名を並べたテンプレートだけを見ても、実際にどこまで詳しく書けばよいかは伝わりにくいものです。本記事では、機能要件・非機能要件それぞれの具体的な記載例を示しながら、記載の粒度感の掴み方と、独立コンサルタントとして案件に活かす視点を整理します。

要件定義書の具体例を見る目的

要件定義書の具体例を確認する目的は、項目一覧だけでは分からない「どこまで詳しく書くか」という記載の粒度感を掴むことにあります。

要件定義書には機能要件・非機能要件・業務要件といった主要な記載項目が存在し、多くの解説記事やテンプレートはこの項目一覧を示すところで終わります。しかし実務では、同じ「検索機能」という項目でも、担当者によって書き込む粒度が大きく異なります。ある担当者は「利用者がキーワードで商品を検索できること」とだけ書き、別の担当者は「利用者が商品名・カテゴリ・価格帯の組み合わせで検索でき、該当件数を一覧画面に表示すること」まで書き込みます。具体例を見比べることで、自分が作成している要件定義書の記載がどの水準にあるかを客観的に判断しやすくなります。

テンプレートだけでは伝わらない「粒度感」

粒度感とは、1つの要件をどこまで細かく分解し、条件や数値を伴う形で言語化するかという記載の解像度を指します。

テンプレートは「記載する項目名」を示しますが、「どの深さまで書くか」までは指定していません。そのため同じテンプレートを使っても、経験の浅い担当者が作成した要件定義書は抽象的な一文で終わり、経験を積んだ担当者が作成した要件定義書は条件分岐や数値基準まで書き込まれているという差が生まれます。この差は開発工程に入ってから、開発者が「解釈」で埋める部分を増やし、認識齟齬による手戻りにつながりやすくなります。具体例を通じて粒度感を学ぶことは、項目名を埋める作業から一歩進んで、実際に機能する要件定義書を作成するための訓練になります。

業種・プロジェクト規模による違い

要件定義書に求められる粒度は、業種や開発規模によっても変わり、一律の正解は存在しません。

たとえば数名規模の社内業務ツール開発であれば、開発者と発注者が日常的にコミュニケーションを取れるため、要件定義書はある程度概要レベルの記載でも運用でカバーできる場合があります。一方、複数のベンダーが関わる基幹システムの刷新や、金融・医療のように誤りが許されにくい業種では、機能要件・非機能要件ともに数値基準や例外処理まで詳細に書き込む必要性が高まります。独立コンサルタントとして複数の業種・規模のプロジェクトに関わる場合は、案件ごとに求められる粒度が異なることを前提に、発注者側の体制や後工程の担当者の経験値を踏まえて記載の深さを調整する視点が求められます。

具体例から学ぶ記載のポイント

要件定義書の記載を学ぶ実践的な方法は、機能要件と非機能要件それぞれについて、抽象的な項目名から具体的な記載文への変換パターンを押さえることです。

以下では架空のプロジェクト(社内向け経費精算システムの刷新)を題材に、機能要件と非機能要件それぞれの記載例を示します。実在する特定の企業・システムを指すものではなく、記載の型を確認するためのサンプルです。

1枚の要件定義書が『機能要件』と『非機能要件』の2つに枝分かれし、それぞれに条件や数値を伴う記載例が添えられている図解

機能要件の書き方の実例

機能要件は「システムが何をできる必要があるか」を、操作の主体・条件・結果の3点をセットで書くことで具体化できます。

情報処理推進機構(IPA)が公開する要件定義の事例集では、機能要件に関する成果物としてプロセス関連(業務フロー図・業務処理定義書)、データ関連(概念ERD・データ項目定義書)、インターフェイス関連(システム間インターフェース定義書・画面/帳票一覧)が挙げられており、機能要件はこの3つの観点に整理して書くことが実務上有効だとされています。この整理を踏まえ、架空の経費精算システムの機能要件を記載例として示します。

項目

記載例

ポイント

経費申請の検索機能

利用者は、申請日・金額・承認ステータス(申請中/承認済/差戻し)の組み合わせで過去の経費申請を検索でき、検索結果を一覧画面に20件単位で表示する。

「検索できる」で止めず、検索条件の種類と表示件数まで書く

承認フローの分岐

申請金額が5万円以下の場合は直属の上長のみの承認で完了し、5万円を超える場合は上長承認後に経理部門の承認を追加で必須とする。

判断基準になる金額を明記し、担当者の解釈に委ねない

いずれの例も、「検索できる」「承認フローがある」という抽象的な項目名を、条件・数値・分岐という具体的な要素に分解しています。この分解の型を押さえておくと、業種やシステムが変わっても同じ考え方で機能要件を書き起こせます。

非機能要件の書き方の実例

非機能要件は、性能・可用性・セキュリティといった品質の観点ごとに、数値や許容範囲を伴わせて書くことで実効性を持ちます。

IPAが公開する非機能要求グレードは、非機能要求について発注者と開発者の間で認識の行き違いが起きやすいことを踏まえ、要求項目を分類し段階的なレベルで示すための枠組みとして提供されています。この考え方を踏まえ、架空の経費精算システムの非機能要件を記載例として示します。

項目

記載例

ポイント

レスポンス性能

経費申請の一覧画面は、同時利用者100名以内のアクセス集中時においても、検索結果の表示までを3秒以内とする。

「速い」ではなく、前提条件(同時利用者数)と数値の両方を書く

障害時の復旧目標

システム障害発生時、月末の集中申請期間(毎月25日〜末日)は4時間以内の復旧を目標とし、それ以外の期間は1営業日以内の復旧を目標とする。

一律の基準にせず、業務上重要な期間を分けて基準を変える

非機能要件は機能要件に比べて後回しにされがちですが、性能やセキュリティの基準を数値化しておかないと、開発が完了してから「動作が遅い」「想定していたセキュリティ水準ではない」といった評価のずれが表面化しやすくなります。

よくある改善ポイント

要件定義書の改善で頻出するのは、抽象的な表現の具体化と、関係者間で解釈が割れる言葉の統一という2つのパターンです。

多くの要件定義書に共通する改善ポイントを、実例の書き換えを通じて確認します。

付箋を左右に分割し、左に曖昧な記載、右に条件・数値を加えた改善後の記載を並べて比較した図

抽象的すぎる記載の具体化

「使いやすい画面にする」のような抽象的な記載は、操作の主体・具体的な動作・判断基準の3点を補うことで検証可能な要件に変えられます。

  • 改善前:「入力しやすい申請フォームにする」
  • 改善後:「申請フォームは、よく使う経費科目(交通費・会議費・消耗品費)を先頭に表示し、直近3か月以内に使った科目を初期選択候補として提示する」

改善後の記載は、「入力しやすい」という主観的な評価を、表示順序・選択候補という検証可能な仕様に置き換えています。抽象的な記載を見つけたら、「この記載だけを読んだ開発者が、迷わず実装できるか」を基準に具体化を検討するとよいでしょう。

関係者間で解釈がずれる表現の修正

「速やかに」「原則として」のような言葉は、関係者ごとに想定する基準が異なりやすいため、数値や条件に置き換える必要があります。

  • 改善前:「エラー発生時は速やかに管理者へ通知する」
  • 改善後:「エラー発生時は、発生から5分以内にメールで管理者へ通知する」

「速やかに」という言葉は、発注者は「即座に」を想定していても、開発者は「その日のうちに」と解釈しているケースが珍しくありません。要件定義書のレビューでは、こうした副詞や「原則として」「基本的には」といった留保表現を見つけるたびに、誰が読んでも同じ基準になる数値・条件へ置き換えられないかを確認する視点が有効です。

独立コンサルタントとしての活かし方

要件定義書の具体例を数多く読み解いてきた経験は、独立コンサルタントが上流工程の案件で実務者としての信頼を得るための土台になります。

要件定義書のページにチェックマークと下線でレビューの跡が複数箇所に書き込まれている様子

コンサルタントの歩み編集部が要件定義支援に携わる独立コンサルタント複数名に聞き取りを行ったところ、発注者側の担当者から評価されるのは、テンプレートの項目を埋める速さよりも、抽象的な記載を見つけて具体化を促すレビュー能力だという声が複数聞かれました。上流フェーズである要件定義への関与は、運用・保守寄りの下流工程に比べて単価水準が高くなりやすい傾向があり、要件定義書の記載品質を高められる実務スキルは、案件獲得や単価交渉の場面でも自分の経験を裏付ける材料として説明しやすくなります。

レビュー観点としての実例活用

要件定義書の具体例を蓄積しておくと、レビュー時に「抽象的な記載かどうか」を判断する基準として使えます。

本記事で示した機能要件・非機能要件の記載例のように、条件・数値・判断基準がそろっているかどうかを確認する視点を持っておくと、他者が作成した要件定義書をレビューする際にも、感覚ではなく具体的な観点で指摘できるようになります。独立コンサルタントとして複数のプロジェクトに携わる中で見つけた良い記載例・改善が必要な記載例を自分の中に蓄積しておくことは、案件ごとに変わる要件定義書の品質を底上げする実務スキルの一つになります。

まとめ

要件定義書は、項目名を埋めることではなく、具体例を通じて粒度感を掴み、条件・数値・判断基準を伴った記載に近づけることで実務に機能する文書になります。

要点の整理

本記事では、要件定義書の具体例を確認する目的、機能要件・非機能要件それぞれの記載例、抽象的な表現や解釈のずれを修正する改善ポイント、独立コンサルタントとして実例を活かす視点を整理しました。テンプレートの項目名を埋めるだけでなく、具体例と照らし合わせながら記載の粒度を確認する習慣が、要件定義書の品質を安定させます。

Web要件定義書テンプレートとの違いへの導線

なお、Webサイト・Webアプリケーション開発に特化した要件定義書は、画面遷移やレスポンシブ対応など、汎用のシステム開発とは異なる項目が加わります。Web開発における要件定義書の書き方を押さえておきたい場合は、Web開発における要件定義書の書き方もあわせて確認すると、業種・開発形態による記載項目の違いを比較しやすくなります。また、要件定義で洗い出した情報をデータの形に落とし込む工程については、要件定義とデータ設計の関係を解説した記事も参考にしてください。

本記事は2026年9月時点の情報に基づいています。

出典・参考情報

  1. IPA(情報処理推進機構)「超上流から攻めるIT化の事例集:要件定義」(2026-09-17参照)
  2. IPA(情報処理推進機構)「システム構築の上流工程強化(非機能要求グレード)」紹介ページ(2026-09-17参照)
  3. コンサル案件の実務データに基づく編集部独自調査(上流工程・下流工程の単価水準比較、要件定義支援に携わる独立コンサルタントへの聞き取り)

本記事の単価水準に関する記述は、編集部独自調査による目安です。実際の単価は経験・業界・案件内容によって変動します。本記事は2026年9月時点の情報に基づいています。

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