ロジカルシンキングにおけるMECEの使い方

ロジカルシンキングにおけるMECEの使い方

提案書を作る場面でロジカルシンキングを使っているつもりでも、論点の分け方に自信が持てないという独立コンサルタントは少なくありません。「モレなくダブりなく」という言葉自体は知っていても、実際の提案書のどこにその考え方を当てはめればよいのかが曖昧なままという声もよく聞かれます。本記事では、前提から結論に至る論理の運び方を整理したうえで、その途中でMECEが果たす役割と、提案書作成という実務場面に即した練習方法を解説します。

ロジカルシンキングの基本構造

ロジカルシンキングとは、前提を出発点にして推論を重ね、結論を導く思考の運び方です。MECEは、この推論の途中で論点を整理するために使う分解の技術という位置づけになります。

独立コンサルタントが提案書を作成する場面では、まず現状に関する前提をクライアントと共有し、その前提から導かれる論点を推論によって分解し、最後に結論としての打ち手を示すという順序が基本になります。この順序が入れ替わると、聞き手は結論を受け取る前に前提の確認から始めることになり、話の理解に余計な時間がかかることがあります。

経済産業省とIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が策定した「デジタルスキル標準」でも、DXを推進する人材に共通して求められるパーソナルスキルの一つとして「批判的思考」がコンセプチュアルスキルの区分に位置づけられており、前提を疑い筋道を検証する力は特定の業界に限らず重視される素養とされています(出典2)。

前提を共有しないまま結論を話し始めると、クライアントが「そもそもなぜその話をしているのか」を確認するところから議論が始まってしまい、用意した時間の多くを前提合わせに使うことになりかねません。提案書の冒頭で現状認識を一文で示しておくだけでも、こうした手戻りは減らせます。

前提の確認から推論による分解を経て結論の提示に至るロジカルシンキングの3段階の流れを示すフロー図

前提→推論→結論の流れ

ロジカルシンキングの骨格は「前提の確認」「推論による分解」「結論の提示」という3段階の流れです。この3段階のどこかを飛ばすと、提案の説得力が落ちる原因になることがあります。

前提の確認とは、クライアントと自分が同じ現状認識に立っているかを揃える作業です。推論による分解とは、その前提から生じている論点を要素に分けて検討する作業で、ここでMECEの考え方が使われます。結論の提示とは、分解した論点のうち優先度の高いものを選び、打ち手として言い切る作業です。

たとえば「業務が特定の担当者に偏っている」という相談を受けた場合、前提として「特定の担当者しか対応できない業務が複数ある」という現状をクライアントと確認し、推論として業務を「他の担当者でも対応できる業務」と「対応できない業務」という1つの軸で分解し、結論として「対応できない業務から優先的にマニュアル化する」という打ち手を示す、という流れになります。

提案書のスライド構成に当てはめると、表紙の次のページで前提となる現状認識を示し、続くページで論点を分解した根拠を並べ、最後のページで結論となる提案を述べる構成が一般的とされています。前提を飛ばして結論から始めると、クライアントが納得する土台がないまま話が進んでしまうことがあります。

MECEがロジカルシンキングで果たす役割

MECEは、推論の過程で論点をモレなくダブりなく分解し、前提から結論までの筋道に抜け漏れを作らないための整理の技術です。モレとは検討すべき要素が抜け落ちている状態、ダブりとは同じ内容を重複して数えている状態を指します。提案書の中で論点が飛躍して見える箇所の多くは、この2つのどちらかが起きていることが少なくありません。

MECEという考え方は、マッキンゼー・アンド・カンパニーに1963年から1973年まで在籍したバーバラ・ミント氏が、ピラミッド原則とともに体系化したとされています。同氏はマッキンゼー初の女性MBA採用者としてクリーブランドで入社し、ロンドン勤務時代を経て1973年まで同社に在籍したと伝えられています(出典1)。

モレなくダブりなく分解した良い例と、区分が重なり合った悪い例を並べたMECEの比較図解

実務でMECEを使う際に注意したいのは、分解の軸を1つに絞ることです。例えば顧客を分ける場合、「新規顧客」と「既存顧客」という軸であればモレなくダブりなく分けられますが、そこに「優良顧客」という別の軸を混ぜると、新規顧客の中にも優良顧客が含まれることになり、ダブりが生じます。

分解の軸

モレなくダブりなく分けられている例

軸が混在してダブりが生じる例

顧客

新規顧客/既存顧客

新規顧客/優良顧客

期間

上半期/下半期

今月/今年度

費用

固定費/変動費

固定費/システム関連費

表の右列はいずれも、粒度や視点の異なる軸が1つの分解の中に混ざってしまっている例です。分解を始める前に「この分け方はどの1つの軸に沿っているか」を自分に問い直す習慣が、モレとダブりを防ぐ実務的な確認方法になります。

もう一つ注意したいのは、MECEを満たす分け方は一つの対象に対して何通りも存在するという点です。どの軸を選ぶかによって、見えてくる論点そのものが変わります。売上を「新規顧客」と「既存顧客」で分ければ、獲得と維持のどちらに力を入れるべきかという論点になりますが、同じ売上を「地域別」で分ければ、拠点ごとの強弱をどう底上げするかという別の論点になります。分解がモレなくダブりなく行えているかだけでなく、その分解が今取り組んでいる論点にとって意味のある軸になっているかも、あわせて確認する必要があります。

MECEを使った実践演習の考え方

MECEは知識として理解するだけでは実務で使いこなせるようにならず、日常的な分解の練習を重ねることで提案書作成の場面でも自然に使えるようになります。特別な研修を受けなくても、手元の資料や身近な話題で練習を始められます。

コンサルタントの歩み編集部が独立系コンサルタント複数名に取材したところ、提案書作成でMECEを意識する場面は、クライアントへの現状報告で論点を整理するとき、複数の打ち手を比較して提示するとき、想定される質問への回答を準備するときの3つに集中しているという声が聞かれました。

練習方法としては、特別な題材を用意しなくても、手元にある提案書やニュース記事を使って次の4つを繰り返すことが有効とされています。

  1. 直近で提出した提案書の見出しを書き出し、同じ1つの軸に沿っているかを確認する:見出しごとに粒度や視点がばらついていないかを点検します。
  2. 新聞やニュース記事の主張を要素に分解し、モレやダブりが無いかを検証する:書き手の論拠を分解し、抜けている観点や重複している論点が無いかを確認します。
  3. クライアントから想定される質問を3つ程度書き出し、回答が指している論点が重複していないかを確認する:この確認を提案書の完成前に行う習慣をつけると、質疑応答で答えに詰まる場面を減らせることがあります。
  4. 分解した論点を同僚や上司に見せ、抜けている観点が無いか確認してもらう:自分一人では気づきにくいモレを、第三者の視点で補います。

独立コンサルタントの場合、提案書を作成する機会はクライアントとの直接契約だけでなく、登録しているエージェント経由の商談でも生じます。独立系コンサルタントの案件は、与信や契約実務の都合上、クライアント企業との直接契約よりもエージェントを介した契約で進むことが実務上多いとされており(出典3)、エージェント担当者に提案の要点を説明する場面でも、論点をモレなくダブりなく整理する力が役立ちます。

提案書の論点を書き出して分解する練習をしている様子を表したノートとペンの情景

まとめ

ロジカルシンキングは、前提の確認・推論による分解・結論の提示という3段階の流れで組み立てる思考の運び方であり、MECEはその中の推論の段階で論点をモレなくダブりなく分解するための技術です。分解の軸を1つに絞ることと、その軸が今の論点にとって意味のあるものかを確認することが、実務でMECEを使いこなすうえでの基本的な確認ポイントになります。

提案書作成の場面では、直近の提案書の見出しを見直す、ニュース記事の主張を分解してみるといった日常的な練習の積み重ねが、MECEを自然に使いこなす力につながります。MECE以外にもロジカルシンキングにはピラミッド原則やロジックツリーといった手法があり、他の手法も確認すると、MECEの位置づけがより立体的に見えてきます。

出典・参考情報

  1. Wikipedia「Barbara Minto」(2026-09-09参照):MECEの考案者バーバラ・ミント氏の経歴に関する情報
  2. IPA(独立行政法人情報処理推進機構)「デジタルスキル標準 概要編 ver.1.2」(2024年7月・経済産業省)(2026-09-09参照):パーソナルスキルとしての批判的思考の位置づけに関する情報

本記事は2026年9月時点の情報に基づいています。

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