ExcelでER図を作成する方法とツールの選び方

ExcelでER図を作成する方法とツールの選び方

ExcelでER図を作成する具体的な手順と、専用ツールへ切り替えるべきタイミングの判断軸を整理します。本記事はコンサルタントの歩み編集部の独自調査に基づき、専用ツール導入前の小規模案件でER図作成を任されている独立コンサルタントに向けて、図形機能を使った描き方から無料・有料ツールとの使い分けまでを解説します。

ExcelでER図を作る利点と限界

Excelは追加費用や導入の手間をかけずにER図を素早く共有できる一方、テーブル数が増えると関係線の管理が手作業では追いつかなくなるという限界があります。

多くの企業や案件先ではすでにExcelが標準的な業務ツールとして導入されており、新たにソフトウェアを申請・インストールする手間がかかりません。IPA(情報処理推進機構)が公開する応用情報技術者試験のシラバスでも、E-R図はDBMS(データベース管理システム)に依存しないデータの関連を表現する手法として位置づけられており、特定の専用ツールを前提としない図法であることが示されています。つまりExcelで描いたER図であっても、四角形(エンティティ)・線(リレーションシップ)・カーディナリティ(多重度)という表記ルールさえ守れば、専用ツールで作成したものと概念上の違いはありません。

IPAが公開する「超上流から攻めるIT化の事例集」でも、要件定義フェーズの成果物として「概念E-R図」「データ項目定義書」の作成が挙げられており、要件を整理する手段としてER図が位置づけられています。ER図の記号や矢印の意味に自信がない場合は、作成前に読み方を確認すると、以降の手順を進めやすくなります。

一方でExcelの図形機能はあくまで作図の補助であり、データベースのテーブル定義から自動でER図を生成したり、逆にER図からDDL(テーブル定義用のSQL文)を出力したりする機能は備えていません。テーブル数がおおむね10〜15を超えると、項目の追加・削除のたびに線の位置がずれ、図全体を手作業で見直す負担が急に増えます。また複数人で同時にファイルを編集すると、上書き保存による競合や版の混在が起きやすい点にも注意が必要です。

左にExcelで手描きした簡素な図、右に専用ツールで表示された複雑な図を対比させた構図。ExcelとER図専用ツールの違いを象徴する

専用ツールとの比較

専用ツールはデータベースからの逆生成やDDLの自動出力に対応できる一方、Excelは追加費用も学習コストもかからない点が強みです。

実務でよく比較検討される選択肢を、導入コスト・共同編集のしやすさ・自動化機能・適した案件規模の観点で整理すると次のとおりです。

選択肢

導入コスト

共同編集

DDL自動生成/逆生成

適した規模

Excel

追加費用なし(既存ライセンスで利用可)

ファイル共有が基本、同時編集は苦手

非対応(手作業のみ)

テーブル数10前後までの小規模案件

draw.io(diagrams.net)などの無料専用ツール

無料(公式サイトで「Free forever」と明記)

クラウド保存先次第で共同編集も可能

製品により対応状況が異なる

中規模までの案件

ERMasterなどのOSS特化ツール(Eclipseプラグイン)

無料(Apache License 2.0のオープンソース)

基本は個人利用向け

DBからのインポート・DDL出力に対応

開発チームと設計を共有する案件

Lucidchartなどの有料SaaS

有料プランが中心(無料プランは機能に制限)

リアルタイム共同編集に強い

製品により対応

複数クライアント・複数案件を並行管理する規模

小規模な要件整理の段階ではExcelで十分なケースが多く、テーブル数や共同編集の必要性が増してきた段階で専用ツールへの移行を検討するのが実務的な進め方です。

Excelでの作成手順

Excelでは「図形の挿入」と「コネクタ(線)」という2つの機能を組み合わせるだけで、専用ツールがなくてもエンティティと関連を表現できます。

作成の流れをステップに分けると次のとおりです。

  1. 用紙のグリッドを整える(表示タブで枠線・目盛線を表示し、共有用にはA3横やスライド比率などレイアウトを決めておく)
  2. エンティティ名で四角形を配置する(角丸四角形を選び、内部にテーブル名を入力する)
  3. 属性(項目)を四角形の中にテキストボックスまたは箇条書きで追加する(主キーには「PK」、外部キーには「FK」を付記すると分かりやすい)
  4. コネクタでエンティティ同士を結ぶ(挿入→図形→線から「カギ線コネクタ」を選ぶと、四角形を移動しても線が自動で追随する)
  5. 線の両端にカーディナリティ(多重度)を書き添える(「1」「多」を小さなテキストボックスで添える、または線の書式設定で矢印の種類を変える)
  6. 「オブジェクトのグループ化」でエンティティと属性をまとめ、PDFまたは画像として書き出して共有する

図形機能を使った基本的な描き方

顧客・注文・商品という3つのエンティティを例に手順を追うと、実際の作業イメージをつかみやすくなります。

以下は架空の業務を想定したER図のサンプルです。

エンティティ

主な属性

関連

顧客

顧客ID(PK)・氏名・メールアドレス

1人の顧客が複数の注文を行う(1対多)

注文

注文ID(PK)・顧客ID(FK)・注文日

1件の注文が複数の商品を含む(多対多)

商品

商品ID(PK)・商品名・単価

1つの商品が複数の注文に登場しうる

顧客・注文・商品の3つのテーブルを線で結んだER図のサンプル。1対多・多対多の関係をカーディナリティ表記で示す

この3エンティティをExcelで描く場合、顧客・注文・商品の順に四角形を横に並べ、顧客と注文の間を1本の線でつなぎ、注文と商品の間を別の1本の線でつなぐと、上図のような構成になります。ExcelはDBMSと接続する機能を持たないため、この作業は毎回手作業になりますが、テーブル数が3〜5個程度の小規模な要件整理であれば、数十分程度で仕上げられます。記号の位置関係や関連の引き方を含めた作成手順の全体像は、別記事でも整理していますので、あわせて参照すると理解が深まります。

専用ツール(無料/有料)を検討すべきタイミング

テーブル数が15〜20を超える、DDLの自動生成が必要になる、複数人での同時編集が発生するといった状況になったら、専用ツールへの切り替えを検討する目安です。

経済産業省 中小企業庁がまとめた「2023年版 小規模企業白書」では、従業員規模が20人以下の企業ほど、デジタル化が進んでいない理由として「必要性を感じていない」「どのように推進してよいか分からない」という回答が多い傾向が示されています。小規模案件のER図作成も同様で、必要性を感じるタイミングを逃さず判断することが、ツール選定の実務では重要です。次のような状況になったら、専用ツールへの切り替えを検討する目安といえます。

  • テーブル数がおおむね15〜20を超え、手作業での整合性チェックが追いつかなくなったとき
  • 既存のデータベースからテーブル定義を読み込んで(リバースエンジニアリングして)ER図を作りたいとき
  • ER図からDDL(CREATE TABLE文)を直接出力し、開発チームに引き渡したいとき
  • 複数人が同時にオンラインで編集し、変更履歴を追いたいとき

無料で始めるなら、draw.io(diagrams.net)のように会員登録なしで使えるツールや、Eclipse環境を使える場合はApache License 2.0で公開されているERMasterのような、DBからのインポートとDDL出力に対応したオープンソースの選択肢があります。ERMasterはテーブル定義をExcel形式で書き出す機能も備えており、Excelでの管理から移行する際に情報を引き継ぎやすい点も特徴です。有料ツールでは、Lucidchartのようなクラウド型の作図SaaSが代表的で、複数人によるリアルタイム共同編集や他のクラウドサービスとの連携に強みがありますが、無料プランには機能や利用人数の制限があるのが一般的です。

積み重なった資料の山とノートパソコンの画面に表示された、多数のテーブルが線で結ばれた複雑な図。テーブル数が増え専用ツールへの切り替えを検討する場面を象徴する

小規模案件を中心に受託する独立コンサルタントの場合、案件の多くはエージェントを介した契約であることが一般的で、成果物の形式やツールに関する要望は契約前にクライアント側から提示されるケースが多くあります。専用ツールへの切り替えを検討する際は、こうした契約条件や納品形式の要望も判断材料に加えておくと実務的です。

まとめ

ExcelによるER図作成は、追加費用や学習コストをかけずに小規模案件のデータ構造を素早く共有できる手段です。一方でテーブル数が増えたり、DDLの自動生成や複数人での同時編集が必要になったりした段階では、draw.ioやERMasterのような無料の専用ツール、あるいはLucidchartのような有料SaaSへの切り替えを検討する好機です。どちらを選んでも、四角形(エンティティ)・線(リレーションシップ)・カーディナリティという同じ表記ルールに基づいている点は変わりません。

本記事は2026年9月時点の情報に基づいています。

出典・参考情報

  1. IPA(情報処理推進機構)「応用情報技術者試験シラバス Ver.7.0」(2026-09-12参照)
  2. IPA(情報処理推進機構)「超上流から攻めるIT化の事例集」(2026-09-12参照)
  3. 経済産業省 中小企業庁「2023年版 小規模企業白書」第2部第2章第2節(2026-09-12参照)
  4. draw.io 公式サイト(2026-09-12参照)
  5. SourceForge「ERMaster」プロジェクトページ(2026-09-12参照)

本記事は2026年9月時点の情報に基づいています。

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