DX推進とは、業務の一部をデジタル化するだけでなく、デジタル技術を使って事業モデルや組織文化そのものを変革する取り組みを指します。本記事では、経済産業省が示す定義と「2025年の崖」の課題を整理したうえで、現場で実践できる5つのステップ、つまずきやすいポイント、DX戦略との違いまでを解説します。DX推進担当者としての実務理解を深め、将来のキャリアを考える手がかりにしてください。
DX推進とは?進め方を5ステップでわかりやすく解説
DX推進がうまく進まないと悩む企業・担当者が多い理由
DX推進が停滞する最大の要因は、業務の一部をデジタル化する「IT化」で満足してしまい、事業モデルや組織文化の変革にまで踏み込めていない点にあります。
多くの企業でDX推進担当者が置かれていますが、実際の取り組みは会計システムのクラウド移行や紙の申請書の電子化といった個別業務のデジタル化にとどまるケースが目立ちます。それ自体は無意味ではありませんが、事業モデルの変革や競争優位性の確立という本来のゴールには到達しません。既存システムの老朽化を放置すると、IT予算の多くが保守運用に費やされ続け、新しい取り組みへの投資余力も生まれにくくなります。
DXが「IT化」で止まってしまう誤解
DX化(IT化)は業務の一部をデジタルに置き換える手段・部分最適の取り組みであるのに対し、DX推進は事業モデルや組織文化まで変える目的・全体最適の構造改革を指します。
DX化は「ゴールが業務効率の改善」で「対象範囲が限定的」な取り組みです。一方でDX推進は、経営・戦略、業務プロセス、顧客体験、組織・人材、ITインフラという複数の領域を横断して変革することを前提とします。個別のツール導入を積み重ねても、経営戦略と紐づいていなければDX推進とは呼べません。
編集部が独自に行った実務家取材でも、「任命直後はまずツールを入れることから始めてしまい、半年後に『何のための導入だったのか』を問われて答えられなかった」という声が複数聞かれました。ツール導入を目的化せず、経営戦略との接続を最初に確認することが、IT化止まりを避ける第一歩になります。
DX推進とは何か:定義と経済産業省の位置づけ
DX推進とは、経済産業省の定義に基づけば、データとデジタル技術を活用して製品・サービス・ビジネスモデルを変革し、業務・組織・企業文化までを変革して競争上の優位性を確立する取り組みを指します。
変革の対象が「製品・サービス・ビジネスモデル」だけでなく「業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土」まで及んでいる点がこの定義のポイントです。DX推進担当者は、システム導入の進捗だけでなく、組織文化がどこまで変わったかも評価軸に含める必要があります。
経済産業省「DXレポート」における定義
経済産業省は2018年9月に「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」を公表し、DXを「データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しました。
この定義は2018年の公表以降も広く引用され、DX推進担当者が経営層に説明する際の共通言語として機能しています。
「2025年の崖」が示す課題
「2025年の崖」とは、既存システムの老朽化・複雑化を放置した場合、2025年以降に年間で最大12兆円の経済損失が生じる可能性があるとされる課題認識です。
背景としてDXレポートが指摘する構造的な課題は、システムの老朽化・ブラックボックス化、IT予算の多くが保守運用に充当され「攻めの投資」に回らないこと、IT人材の高齢化・属人化と若手不足、経営層のDXへの理解不足、特定ベンダーへの依存などです。
これらの課題は相互に関連しています。老朽化したシステムの維持に保守運用予算が割かれ、新しい人材育成や別の選択肢を検討する余力が失われる悪循環が生まれやすい構造です。この構造を経営層に説明できるかどうかが、投資判断を引き出せるかの分かれ目になります。

DX推進を進める5ステップ
DX推進は、現状把握とビジョン策定、推進体制・組織づくり、業務プロセスの可視化、デジタル技術の選定・導入、定着化とKPIモニタリングという5つの段階を順に踏むことで進めやすくなります。
DX推進の実務解説では、目的の明確化と現状把握から着手し、体制を整備したうえで優先順位をつけて取り組み、運用しながらPDCAサイクルを回す進め方が共通して紹介されています。これを実務で使いやすい5つのステップに整理します。
ステップ1: 現状把握とビジョン策定
ステップ1では、既存の業務・システムの現状を棚卸ししたうえで、DX推進によって何を実現したいのかというビジョンを言語化します。
現状把握では、稼働中のシステムの一覧化、業務プロセスの洗い出し、既存データの所在確認を行います。これを省略して技術導入から着手すると、現場の例外対応が後から発覚し手戻りが生じやすくなります。ビジョン策定では、売上拡大・コスト削減・顧客体験の向上のどこに重心を置くかを、経営層と合意しておくことが欠かせません。
ステップ2: 推進体制・組織づくり
ステップ2では、経営層直下または経営層と直接連携できる推進体制を整え、部門横断でDX推進に取り組める組織をつくります。
DX推進部門を新設する企業も増えていますが、専任部署をつくること自体が目的化しないよう注意が必要です。情報システム部門・事業部門・経営企画部門が同じ目線で議論できる場を用意し、経営層が継続的にコミットする仕組みを組み込むことが重要です。
ステップ3: 業務プロセスの可視化
ステップ3では、対象となる業務の現状(As-Is)を図として可視化し、どの工程をデジタル技術に置き換えるかを関係者間で合意します。
業務プロセスを可視化せずにシステム導入を進めると、要件定義の段階で現場の実際の手順と噛み合わない手戻りが発生しやすくなります。フローチャートやスイムレーン図といった簡易な記法でも構わないため、担当者・部門・処理の順序を一枚の図に落とし込み、経営層向けには簡易版、実務担当者向けには例外処理まで含めた詳細版というように粒度を描き分けることが実務上のコツです。
ステップ4: デジタル技術の選定・導入
ステップ4では、可視化した業務プロセスのうちどの工程をどの技術で置き換えるかを検討し、自社の業務規模・体制に見合った技術を選定します。
クラウドサービス・RPA・生成AIなど選択肢は多岐にわたりますが、技術ありきで導入を決めると現場に定着しないまま形骸化するリスクがあります。投資対効果が見えやすく負担の大きい業務から着手し、小さな成功事例を積み重ねてから対象範囲を広げる進め方が現実的です。
ステップ5: 定着化とKPIモニタリング
ステップ5では、導入した仕組みが一時的な取り組みで終わらないよう、運用ルールを整備し、KPIを継続的にモニタリングして改善を回します。
導入直後は利用率が高くても、時間が経つにつれて従来のやり方に戻ってしまうケースが少なくありません。利用状況や業務時間の変化といった定量的なKPIを設定し、定期的に点検・改善するPDCAサイクルを組み込むことが欠かせません。5ステップは一度きりで完了するものではなく、事業環境の変化に応じて現状把握からやり直す前提で運用することが、DX推進を継続させるポイントになります。

DX推進でつまずきやすいポイント
DX推進が停滞する典型的な要因は、経営層のコミットメント不足と、現場との温度差という2つに集約されます。
5ステップを踏んでいても、この2点への対応が不十分だと途中で形骸化しやすくなります。
経営層のコミット不足
経営層のコミット不足とは、DX推進の意義や長期的なビジョンの明確化を経営層自身が行わず、現場や担当者に任せきりにしてしまう状態を指します。
経営・戦略、業務プロセス、顧客体験、組織・人材、ITインフラという複数の領域を横断して意思決定できるのは経営層だけです。現場や担当者任せでは推進力が欠如するとの指摘もあり、投資判断や部門間の調整といった経営マターが動かなければ、取り組みは個別最適の域を出ません。
現場との温度差
現場との温度差とは、経営層や推進担当者が描く変革のイメージと、実際に業務を担う現場の危機感・理解度との間にギャップが生じている状態を指します。
社内に危機感が浸透していないこと、推進スキルを持った人材を社内で育成できないこと、既存システムからのリプレイスが技術的に難しいことなどが、つまずきの要因として挙げられています。現場のヒアリングを丁寧に行い、業務プロセスの可視化(ステップ3)を通じて課題を共有ベースにすることが、温度差を縮める実務的な手段になります。
DX戦略とDX推進の関係
DX戦略はDXを通じて何を実現するかという方針・計画であり、DX推進はその戦略を実行に移す一連の実務活動という関係にあります。
実務上は、DX戦略で優先領域・投資配分・達成目標を定め、DX推進でその戦略を現状把握・体制構築・技術導入・定着化という実行プロセスに落とし込む、という順序で進めることが一般的です。
DX戦略とDX推進の違い
DX戦略とDX推進の違いは、前者が「何を・なぜ実現するか」という上位の意思決定であるのに対し、後者が「どう実現するか」という実行の積み重ねである点にあります。
DX戦略が曖昧なままステップだけを進めると、個々の施策は実行されていても全体像が見えにくくなります。自社のDX戦略がどのような優先順位・投資配分になっているかを把握したうえで、5ステップの実行に取り組むことが望ましいといえます。DX戦略の具体的な策定プロセスはDX戦略の策定ステップを見るで整理しています。
独立コンサルタントから見たDX推進案件の実態
独立コンサルタントの視点から見ると、DX推進案件は事業会社の情報システム部門・新規事業部門を中心に案件数・単価水準ともに拡大傾向にある領域です。
事業会社でDX推進担当者を経験したあと、独立してコンサルタントとして活動する道を選ぶ人も一定数存在します。現状把握から定着化まで一通りの実務を経験していることは、独立後の案件提案で実務理解の裏づけとして評価されやすい要素です。
求められるスキルと案件機会
独立後のDX推進コンサルタントに求められるのは、業務プロセスを可視化するスキルと、経営層・現場の双方と合意形成を進める調整力です。
ドメイン知識ベースの調査によれば、DXコンサルタントのフリーランス月額単価は100〜160万円程度(平均約120万円)が相場で、IT戦略領域では150〜200万円、製造業向けDX案件では140〜200万円まで上振れる傾向があります。単価は業界や工程(上流の戦略策定か実行支援か)で大きく変わる点を踏まえておく必要があります。
案件数の面では、PM/PMO・ITコンサル領域やデータ活用(AI/ML)領域の需要が、2025年6月時点の前年同月比で約1.8倍〜2倍程度に急伸しています(出典:レバテック『ITフリーランス市場動向 2025年6月』)。背景には戦略・DX・IT・データ・AIといった高度人材の絶対数不足があり、IT人材は2030年に約79万人不足すると見込まれています。
編集部が独自に行った実務家取材でも、「事業会社側でDX推進担当を務めた経験がある人ほど、独立後の案件面談で具体的な失敗談を語れるため評価されやすい」という声が聞かれました。独立に必要なスキル・資格の全体像はDXコンサルへのキャリアパスを見るで、コンサルティング業務全般への理解はDXコンサルティングの全体像を見るで解説しています。

まとめ:DX推進の全体像を押さえて次の一歩へ
DX推進とは、経済産業省の定義に基づけば事業モデル・組織・企業文化までを変革する取り組みであり、IT化止まりを避けるには5つのステップを順に踏み、経営層のコミットと現場との温度差解消を並行して進める必要があります。
- DX推進はIT化(業務の一部のデジタル化)とは異なり、事業モデル・組織文化までを対象にした構造改革です。
- 経済産業省のDXレポート(2018年)は、既存システム放置による2025年以降の年間最大12兆円の経済損失リスク「2025年の崖」を提示しています。
- 実務では現状把握とビジョン策定、推進体制・組織づくり、業務プロセスの可視化、技術の選定・導入、定着化とKPIモニタリングの5ステップで進めます。
- 経営層のコミット不足と現場との温度差が、DX推進が形骸化する典型的な要因です。
- DX戦略が「何を・なぜ」を定め、DX推進が「どう実現するか」を担う役割分担を意識することが重要です。
DX推進担当者としての実務経験は、独立コンサルタントとしての選択肢にもつながる専門性です。この記事を、自社のDX推進を見直す出発点としてご活用ください。
関連記事で理解を深める
DX推進の全体像を理解したあとは、DX戦略の策定プロセス、DXコンサルタントに求められるスキル・資格、DXコンサルティングの全体像といった関連テーマも合わせて確認すると理解が深まります。それぞれ本文中のリンク先で詳しく解説しています。
出典・参考情報
- KDDI Business「DX推進とは何か簡単に解説|企業の取組事例も紹介」(2026-09-07参照)
- KDDI Business「『2025年の崖』とは 経済産業省のDXレポートに触れながらわかりやすく解説」(2026-09-07参照)
- パソナ i-Design「DX推進とは?概要、求められること、DX化との違いについて解説」(2026-09-07参照)
- パーソルグループ「DX推進とは|取り組み方やポイント・事例を徹底解説」(2026-09-07参照)
本記事は経済産業省「DXレポート」(2018年9月公表)等の情報を基に、2026年9月時点の内容として整理しています。DX推進に関する制度・統計は変動する可能性があるため、最新情報は各公式情報源でご確認ください。最終更新日:2026年9月7日
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