業務効率化の成功事例に共通しているのは、対象を1つの業務に絞り、導入前後を数字で比べていることです。本記事では、製造業・小売サービス業・金融業・医療介護・自治体の5つの業種について、公的機関が公開している資料を出典に、何を変えてどの指標がどう動いたかを整理します。あわせて、成果が出た企業に共通する3つの特徴と、事例を自社に取り入れるSTEP1〜STEP4の手順、事例を参考にするときの注意点を解説します。
業務効率化の成功事例5選|成果が出た企業の共通点と進め方
業務効率化の成功事例を見る前に押さえること
事例を読む前に、業務効率化の意味と、成果を測る指標の種類を決めておくと、数字の読み違いを防げます。同じ「効率化」でも、業種によって見るべき指標が異なるためです。
業務効率化とは
業務効率化とは、業務の中にあるムリ・ムダ・ムラを減らし、少ない時間と人手で同じ品質の成果を出せるようにする取り組みです。厚生労働省の介護分野の資料でも、業務の明確化と役割分担の見直しによってムリ・ムダ・ムラ(3M)を減らす考え方が、生産性向上の取組の一つとして整理されています(出典:厚生労働省「介護分野における生産性向上ポータルサイト」)。
単に作業を速くすることとは違い、手順そのものをなくす、人が行う作業を仕組みに置き換える、といった見直しも含みます。そのため、成功事例を読むときは「何を速くしたか」よりも「どの作業をなくしたか」に注目すると、自社に応用しやすくなります。
成果を測る指標
成果を測る指標は、作業時間・件数・人員の3種類に大きく分けられ、事例ごとに最も動きが見えやすいものが選ばれています。事例どうしの数字を直接比べるのではなく、各事例が使った指標をそのまま読むのが、数字を誤解しないコツです。
- 作業時間:1件あたりの処理時間、年間の削減時間、残業時間
- 件数・頻度:会計ミスの件数、訪室の回数、問い合わせへの対応件数
- 人員・事務量:配置人員の数、営業店の事務量
成功事例5選
ここで紹介する5事例は、いずれも国や公的機関、日本銀行が公開している資料に記載された内容です。事例の数値は各資料の記載時点のもので、業種・規模・条件が異なるため、そのまま他社の目標値にはなりません。
業種 | 取り組んだこと | 成果を測った指標 |
|---|---|---|
製造業 | 段ボール製箱機の導入 | 1箱あたりの梱包時間、残業時間 |
小売・サービス業 | タッチパネル式のセルフ注文・レジ | 会計ミス、客単価 |
金融業 | 営業店の事務を本部やATMへ移す改革 | 営業店の事務量 |
医療・介護 | 見守り機器などの介護テクノロジーとノーリフティングケア | 夜勤中の訪室回数、入浴介助の配置人員 |
自治体 | AI議事録作成・RPAによる入力作業 | 1回あたり・年間の作業時間 |

製造業の事例
製造業では、梱包という最終工程の作業を設備に置き換え、1箱あたりの時間を10分以上から約1分に縮めた事例があります。北海道札幌市で金属加工などを手がける従業員140名の企業が、省力化投資補助金(カタログ注文型)を使って段ボール製箱機を導入したものです(出典:中小企業基盤整備機構「補助金活用ナビ」・2026年5月19日公開の事例)。
導入前は、製品ごとに異なるサイズの既製箱を探して切断し、折るところまで担当者が行っており、1日5時間以上を費やしていました。導入後は、製箱・梱包・発送部門の残業が、1人1日平均2時間から月平均10時間未満になり、直近ではほぼなくなったとされています。生まれた時間は、塗装の検査やマスキング作業の応援にも使われています。測った指標は「1箱あたりの時間」と「残業時間」で、成果が作業の現場で実感しやすい点が特徴です。
小売・サービス業の事例
小売・サービス業では、注文と会計を客自身が行うタッチパネルを導入し、会計ミスを約9割減らした事例があります。和歌山県和歌山市で弁当店と仕出し店を展開する従業員41名の企業が、IT導入補助金を使ってセルフ注文・レジを旗艦店に2台入れたものです(出典:中小企業基盤整備機構「補助金活用ナビ」・2023年1月29日公開の事例)。
レジの打ち間違いや釣り銭の受け渡しミスがほぼなくなったうえ、画面が追加メニューを提案することで客単価が約2割上がったとされています。一方で、同じ資料には、慢性的な人手不足は解消しておらず、在庫管理や仕入れは今もアナログのままで課題として残っていると書かれています。成果が出た点と、残った課題の両方が書かれている事例として、読み方の参考になります。
金融業の事例
金融業では、りそなホールディングスが営業店の事務量を2003年度から2015年度の間に56%減らした事例が、日本銀行の資料で紹介されています。月ごとの営業店事務量は、2003年度の4億2,400万秒から、2015年度の1億8,800万秒になりました(出典:日本銀行金融機構局金融高度化センター「金融機関の業務改革と働き方改革の『変容』」・2020年1月29日、りそなホールディングスの講演資料を引用)。
改革の出発点は、営業店で処理する事務の件数が全体の5%にすぎないのに、事務にかかる活動原価では70%を占めていたことでした。そこで、ATMと社員端末を連動させる方式、現金の取引や管理をATMに集約する方式、後方事務を集約拠点に移す方式などで、営業店から人手の事務をなくしました。同じ資料では、営業店の事務人員もほぼ半減したとされています。数年単位の取り組みで、時期も古い事例ですが、事務の「件数」ではなく「かかる原価」に着目した点は、現在の業務の見直しにも応用できます。
医療・介護の事例
医療・介護の分野では、特別養護老人ホームが見守り機器などの介護テクノロジーを導入し、夜勤中の利用者1人あたりの訪室回数を6.3回から3.8回に減らした事例があります。兵庫県神戸市の特別養護老人ホーム「六甲の館」の取り組みで、令和6年度の内閣総理大臣表彰を受けています(出典:厚生労働省「令和6年度 介護職員の働きやすい職場環境づくり 内閣総理大臣表彰及び厚生労働大臣表彰 取組事例集」)。
同じ施設では、人力で抱えない介護(ノーリフティングケア)の推進と浴室へのリフト導入により、利用者約20名あたりの入浴介助の配置人員が半減したとされています。また、同じ資料には、91%の職員がケアの質が向上したと回答したことも記載されています。介護の事例では、時間だけでなく、事故件数や職員の回答といった複数の指標を並べて成果を確認している点が特徴です。
自治体の事例
自治体では、議事録の作成にAIの音声認識を使い、1回あたり3時間30分から6時間を減らした事例が、総務省の調査資料に載っています。人口6.2万人の市で、1回4〜8時間かかっていた作業が30分〜2時間になり、75%の削減になったとされています(出典:総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進」令和6年7月5日版)。
同じ資料には、人口7.7万人の団体がRPAを複数の業務に導入し、年間4,897時間を削減した事例も載っています。内訳として、マイナンバー管理業務のデータ化作業で年間690時間、課税異動業務のデータ化作業で年間1,935時間が削減されました。人口10万人未満の団体でも、複数の業務にRPAを入れることで年間1千時間を超える効果が出ていると資料は整理しています。1つの業務の削減幅は小さくても、対象業務を重ねると効果が積み上がる点が読み取れます。
成果が出た企業に共通する3つの特徴
5つの事例を並べると、成果が出た取り組みには、測る・仕組みで減らす・時間の使い道を決める、という3つの特徴が共通して見えます。
- 対象を絞って、導入前後を同じ指標で測っています。梱包時間、訪室回数、営業店の事務量のように、変化が数字で比べられる指標を1つ決めています。
- 人の努力ではなく、仕組みで作業を減らしています。製箱機、セルフレジ、ATMへの集約、見守り機器、RPAのように、人が行っていた作業そのものを置き換えています。
- 生まれた時間の使い道が決まっています。製造業の事例では検査や別作業への応援に、金融業の事例では営業店を事務からセールスの場へ転換することに、時間や人員が振り向けられています。
この3つのうち、導入前の状態を数字で残していないと、他の2つの効果を確かめられません。最初に指標を決めることが、成果の説明にも欠かせない土台になります。

事例を自社に取り入れる手順 STEP1〜STEP4
事例を自社に取り入れるときは、課題の洗い出し、業務の選定、小さな試行、測定と展開の4段階で進めます。事例の施策をそのまま真似るのではなく、事例が使った考え方を自社の業務に当てはめる手順です。

STEP1 課題を洗い出す
最初に、業務を工程に分けて、時間がかかっている作業と手作業が重なっている作業を書き出します。入力は、担当者へのヒアリングと、現在の業務の流れです。出力は、工程ごとに「1回あたりの時間」「月の回数」「誰が行っているか」を書いた一覧になります。
製造業の事例で、梱包に1日5時間以上かかっていたことが課題として見えたように、時間の数字が入っていると、次の選定に使えます。業務効率化とは?進め方の基本とよくある失敗でも、現状を見える形にしてから着手する進め方を整理しています。
STEP2 効果の大きい業務を選ぶ
洗い出した作業のうち、時間の合計が大きく、置き換えの方法が見つかりやすいものを1つ選びます。入力は、STEP1の一覧です。出力は、対象業務1つと、効果を測る指標1〜2個です。
金融業の事例が、件数の少ない営業店事務にコストが集中していることに気づいて着手したように、件数ではなく「かかる時間の合計」で並べると、見落としていた業務が見つかることがあります。判断の基準は、①月あたりの合計時間が大きい、②手順が決まっていて置き換えやすい、③影響を受ける担当者が少ない、の3点です。
STEP3 小さく試す
選んだ業務を、1つの部署や1つの拠点だけで試します。入力は、対象業務と指標です。出力は、試行前後の指標の比較表と、現場から出た困りごとの一覧です。
自治体の事例のように、1つの業務の削減幅が小さくても、複数の業務に広げて積み上げる方法があります。最初から全社に入れると、現場の混乱で効果が測れなくなるため、期間を決めて試し、試行前の数字と並べて確認します。ツールの選び方に迷う場合は、業務効率化のためのシステム導入の考え方が参考になります。
STEP4 効果を測定して広げる
試行の結果を、事前に決めた指標で確認し、効果が出ていれば他の部署や業務に広げます。入力は、STEP3の比較表です。出力は、展開する範囲と時期を書いた計画と、効果の測定を続ける担当者の決定です。
効果が出なかった場合は、原因が「業務の選び方」にあるのか「置き換えの方法」にあるのかを分けて見直します。改善の進め方は業務効率化のフレームワーク|課題を見つけ改善案を選ぶ手順、効果を高める考え方は業務効率化の効果を高めるための考え方とはで詳しく扱っています。
事例を参考にするときの注意点
事例の数値は、その企業の条件で出た結果であり、他社で同じ効果が出ることを約束するものではない点に注意が必要です。参考にするときは、次の3点を確認します。
- 事例の時期と前提:りそなホールディングスの事例のように、数年単位の取り組みで、時期の古いものもあります。出典の公開時点と対象期間を確認します。
- 規模と業種の違い:従業員41名の店舗と、全国規模の銀行では、同じ手法でも効果の出方が異なります。
- 残った課題:杏亭グループの資料のように、人手不足や在庫管理が課題として残る例もあります。成果だけでなく、解決していない点も読み取ります。
提案資料に事例を載せるITコンサルタントは、数値の出典と時点を併記し、断定ではなく「〜の事例があります」と書く形にしておくと、後から指摘を受けにくくなります。なお、外部のコンサルタントが業務効率化の支援を担う場合、契約は準委任契約が多く(フリーコンサル案件の約70〜80%とされています)、成果物の完成ではなく業務の遂行に対して報酬が支払われるのが一般的です。事例の数値を、成果の保証として約束する書き方は避けます。
まとめ|自社の業務に合う事例の選び方
自社に合う事例を選ぶ基準は、業種の近さよりも、「どの作業をどの仕組みに置き換えたか」が自社の課題と重なっているかどうかです。製造業の梱包、小売の会計、金融の事務、介護の夜間巡回、自治体の入力作業は、業種が違っても「人が繰り返し行っていた作業を仕組みに置き換えた」という点で共通しています。
- 業種が違っても、置き換えた作業の種類が似ている事例を選びます。
- 対象を1つの業務に絞り、導入前の数字を残してから試します。
- 生まれた時間の使い道まで決めて、効果を続けて測ります。
個別の業務や契約の判断が必要な場合は、専門家にご相談ください。
出典・参考情報
- 中小企業基盤整備機構「補助金活用ナビ」株式会社中央ネームプレート製作所の事例(2026-10-12参照)
- 中小企業基盤整備機構「補助金活用ナビ」杏亭グループの事例(2026-10-12参照)
- 日本銀行金融機構局金融高度化センター「金融機関の業務改革と働き方改革の『変容』」(2026-10-12参照)
- 厚生労働省「令和6年度 介護職員の働きやすい職場環境づくり 取組事例集」(2026-10-12参照)
- 総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進」令和6年7月5日版(2026-10-12参照)
- 厚生労働省「介護分野における生産性向上ポータルサイト」業務改善に向けた取組(2026-10-12参照)
本記事の内容は2026年10月時点の情報に基づきます。事例の数値は各資料の記載時点のもので、制度や統計は変更される場合があります。最新情報は各機関の公式情報をご確認ください。個別の業務や契約条件の判断は、必要に応じて専門家にご相談ください。
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