BPRの成功事例から学ぶ進め方|成果が出た企業に共通する3つの条件

BPRの成功事例から学ぶ進め方|成果が出た企業に共通する3つの条件

BPRの成功事例を見ると、成果が出た取り組みには「経営層が目的を示す」「現場を設計に巻き込む」「成果指標を先に決める」という3つの条件が共通しています。本記事では、総務省やIPA(情報処理推進機構)など公的機関が公開している資料をもとに、BPR(業務改革)の意味、成功に近づく条件、事例の型、失敗の典型、外部支援の使いどころを整理します。2026年10月時点の情報で、個別の企業名には踏み込まず、公開資料から読み取れる傾向として扱います。

BPRとは

BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)とは、既存の業務の流れを根本から見直し、仕事の進め方そのものを作り直す取り組みです。部署単位の小さな改善ではなく、複数の部門をまたぐ業務の流れを対象にする点に特徴があります。

言葉の意味

BPRは「業務改革」と訳され、業務の流れ(ビジネスプロセス)を前提から問い直して再構築することを指します。

1990年代に米国で広まった考え方とされ、「今の手順をどう速くするか」ではなく「そもそもこの手順は必要か」から検討を始めます。総務省の調査でも、BPRは「Business Process Re-engineering:業務フローの再構築」と説明されています(出典:総務省「BPRの手法を用いた業務分析の取組状況」、令和4年4月1日現在)。民間の解説でも「既存の業務フロー(ビジネスプロセス)を根本的に見直し、再構築すること」と定義されており、公的機関と民間で説明の方向は一致しています(出典:freee「BPR(業務改革)とは?」)。

業務改善との違い

業務改善は業務フローの一部を少しずつ直す取り組みで、BPRは業務フローそのものを根本から作り直す取り組みという違いがあります。

業務改善が小さな範囲から段階的に進めるのに対し、BPRは企業全体を対象に短期間で大きな改善を図るのが一般的とされています(出典:freee「BPR(業務改革)とは?」)。違いを整理すると次のとおりです。

観点

業務改善

BPR(業務改革)

対象範囲

業務フローの一部、1つの部署

複数部門をまたぐ業務フロー全体

問いの立て方

今の手順をどう速くするか

そもそもこの手順は必要か

進め方

小さな範囲から段階的に

全体を設計し直し、短期間で大きく変える

主な判断者

部署の責任者

経営層

一部の手順だけを直す業務改善と、業務の流れ全体を作り直すBPRの違いを左右に並べた比較図

成功事例に共通する条件

成果が出た取り組みに共通する条件は、経営層の関与、現場の巻き込み、成果指標の設定の3つです。公開されている資料の傾向を整理したもので、3つを満たせば必ず成果が出るという意味ではありません。

経営層の関与

経営層が目的・必要性・ゴールを全社に説明し続けることが、BPRを前に進める第一の条件です。

BPRは部門をまたぐため、部署ごとの利害が必ずぶつかります。ある部署にとっての最適が、別の部署にとっては負担増になることも珍しくありません。民間の解説でも、スムーズに進めるには経営のトップがBPRを導入する必要性・目的・ゴールを社内全体に説明することが重要とされています(出典:freee「BPR(業務改革)とは?」)。

編集部の見立てとして、経営層が最初に決めておくとよいのは手段ではなく「何をやめるか」です。やめる業務が決まらないまま進むと、新しい手順が既存の手順に積み上がるだけになり、工数が減りません。

現場の巻き込み

現場は例外処理や暗黙のルールを最もよく知っているため、設計の段階から巻き込むことが、定着と効果の両方を左右します。

総務省の調査票には、ある指定都市が窓口手続を見直した事例が載っています。出生関係の手続で約56分かかっていた処理を約42分にできるという試算でしたが、実績の欄では「複雑でないケースは当初想定した時間短縮が概ね達成できている一方、複数の手続を同時に行う場合や複雑なケースでは手続に時間がかかる場合がある」と記載されています(出典:総務省「BPRの手法を用いた業務分析の取組状況」、令和4年4月1日現在。試算は検討段階の数値)。机上の設計では見えない例外が、現場の実態として効果を左右することがわかります。

実務では、設計案を現場の担当者に見せて「この手順で止まる場面はどこか」を聞くと、例外の洗い出しが早く進みます。現場の担当者を設計メンバーに入れる場合は、通常業務との兼務で負荷が偏らないよう、時間の確保も合わせて決めておくとよいでしょう。

成果指標の設定

成果指標は施策を始める前に「何をどれだけ変えるか」を数値で決めておくと、効果の検証と継続の判断ができます。

総務省の調査では、窓口業務改革(総合窓口化・民間委託)を実施している市区町村(指定都市を除く)が703団体あるのに対し、BPRによる効果を把握している団体は52団体でした。指標の例として、市民満足度、待ち時間、手続時間、職員数、人件費、時間外勤務時間、業務量が挙げられています(出典:総務省「BPRの手法を用いた業務分析の取組状況」、令和4年4月1日現在)。取り組みの数に比べて、効果を数字で把握している例は限られています。

民間も含めたDX全般では、IPAの「DX動向2025」で、DXの成果を把握するための指標を設定している企業の割合が日本は27.4%、米国は89.8%、ドイツは82.7%でした(出典:IPA「DX動向2025」、1.4節 図表1-25)。BPR単体の数値ではありませんが、成果を数字で追う習慣に差があることがうかがえます。指標を決める際の考え方を表にまとめます。

指標の例

測るもの

設定時の注意

処理時間・手続時間

1件あたりの所要時間

通常ケースと例外ケースを分けて測る

業務量(工数)

月あたりの担当者の作業時間

見直し前の実測値を必ず取っておく

コスト(人件費・経費)

業務にかかる費用の総額

新システムの運用費も含めて比べる

満足度・待ち時間

利用者や社内顧客の体感

改革の前後で同じ聞き方にそろえる

どの指標でも、見直し前の数値を取っていなければ、改革後に比較できません。着手前の計測を最初の作業に組み込むことが、成果を説明できる事例につながります。

事例の型(1)

公開されている事例では、間接業務の統合と工程の削減が、BPRの基本の型として繰り返し登場します。どちらも、業務の中身を変える前に「集める」「減らす」という整理から始める点が共通しています。

間接業務の統合

間接業務の統合とは、各部署に散らばっている庶務・総務事務などを一か所に集め、手順とシステムをそろえて処理する型です。

総務省の調査では、庶務業務の集約化を実施している都道府県が47団体あり、そのうち24団体がBPRによる効果を把握していました。把握している指標は職員数、コスト、人件費、業務量などです(出典:総務省「BPRの手法を用いた業務分析の取組状況」、令和4年4月1日現在)。調査票には、ある県が総務事務センターを設置した事例として、集約前の人件費約9.2億円が、センターの人件費約2.7億円と関連システムの設置・運営経費約0.9億円になり、約5.6億円を削減したという記載があります(同資料、都道府県・庶務業務の集約化の調査票。数値は各団体の申告)。

各部署で別々に処理していた庶務業務を、事務センターに集めて標準の手順で処理する集約前後のフロー図

数値は行政組織の事例で、組織の規模や業務の範囲が異なる民間企業にそのまま当てはまるわけではありません。ただし、「散在する同種の業務を集める」「システムで処理を標準化する」という考え方は、民間の経理・人事・総務の共通業務にも応用できる型です。

工程の削減

工程の削減とは、申請・承認・確認といった手順の段数を減らし、同じ成果をより少ない手順で得られるようにする型です。

総務省の調査票にある窓口手続の事例では、複数の手続が一つの窓口で済み、申請書の記載の重複がなくなったことで、会社員世帯の出生関係手続が約56分から約42分になる試算が示されていました。減ったのは作業の速さではなく、同じ情報を何度も書く手順そのものです。

工程を減らす際は、「その確認は誰のためか」「その承認で実際に差し戻した件数はどれくらいか」を現場と確認します。差し戻しがほとんど発生していない承認は、削減の候補になります。ただし、法令や社内規程で求められている確認は、削減できるかどうかを法務や監査の担当者に確認したうえで判断します。

事例の型(2)

もう一つの型は、システム刷新と業務の再設計をセットで進める型と、拠点や組織を再編して業務の置き場所を変える型です。投資や配置換えを伴うため、型(1)より関係者が多く、判断も重くなります。

システム刷新と業務の再設計

システム刷新は、業務の流れを先に設計し直してから入れ替えるほうが効果が出やすく、現行の手順をそのままシステムに写すと効果が限られると考えられます。

IPAが公表した官公需取引のフィージビリティスタディーでは、契約、請求、入金消込などの業務プロセスを改善した場合に、約25億4,800万円の削減効果が生じる可能性があると示されています。あわせて、契約から受注事業者への国庫金振込までをデジタルで完結させるアーキテクチャの素案も提示されました(出典:IPA「官公需取引におけるBPRに向けたフィージビリティスタディー報告書について」、2023年11月14日)。官公需という特定領域の試算であり、実際の削減額を保証するものではありません。

この事例が示すのは、紙やメールでやり取りしていた契約・請求・入金確認の流れを、データが途切れない形に作り直すという発想です。システムの機能を先に選ぶのではなく、「業務のどの段差をなくしたいか」を先に決めると、導入後に使われない機能を減らせます。

拠点の再編

拠点の再編は、窓口・事務処理・問い合わせ対応などの置き場所と役割分担を組み替えて、業務の重複を減らす型です。

総務省の調査では、窓口業務改革(総合窓口化・民間委託)について、20ある指定都市のすべてが取り組んでおり、そのうち効果を把握している団体は5団体でした(出典:総務省「BPRの手法を用いた業務分析の取組状況」、令和4年4月1日現在)。複数の手続を一つの窓口でまとめて受け付ける総合窓口は、利用者から見た拠点を統合する例にあたります。

拠点の再編は、人員の配置換えや契約の見直しを伴うことがあります。配置転換や委託契約の個別の扱いは、人事・法務の担当者や社会保険労務士、弁護士などの専門家に確認しながら進めるのが安全です。

失敗の典型

BPRの失敗は、範囲が広すぎて着地しないケースと、定着の仕組みがなく元のやり方に戻るケースの2つに大きく分かれます。どちらも、着手前の設計で防げる余地があります。

範囲が広すぎる

全社・全業務を一度に対象にすると論点が膨らんで判断が止まるため、対象を絞って成果を確認しながら広げるのが現実的です。

対象業務を選ぶ際は、次の3点で優先順位をつけると絞り込みやすくなります。

  • 件数が多い業務:改善の効果が積み上がりやすく、成果を数字で示しやすい
  • 手戻りや待ちが多い業務:現場の不満が強く、協力を得やすい
  • 部門間の受け渡しが多い業務:BPRの強みである部門横断の見直しが生きる
対象業務を絞り、効果を測り、次の業務へ広げるという3段階の進め方を示した階段状の図

最初の対象で効果を確認できれば、次の対象を決める際の根拠になり、経営層への説明もしやすくなります。

定着の仕組み不足

新しいやり方を定着させるには、手順書や権限設定、評価指標への組み込みなど、元に戻れない仕組みを同時に作る必要があります。

編集部の整理では、設計を経営企画部門や外部の支援者だけで完結させ、現場には完成形だけを説明した場合に、旧来のやり方が非公式に併用され続けやすくなります。旧手順が残ると二重の作業が発生し、新手順の効果が見えなくなります。

定着の確認には、着手前に決めた成果指標を使います。改革後も同じ指標を一定期間測り続け、数値が戻り始めたら原因を現場に聞く運用にしておくと、元のやり方への後戻りに早く気づけます。

外部支援の活用

外部支援は、社内に不足する分析・設計・推進の専門性を補う場面で使い、方針の決定と定着は社内に残すのが基本です。成功の3条件のうち、経営層の関与と現場の巻き込みは社内でしか担えません。

コンサルの使いどころ

コンサルの使いどころは、現状業務の可視化、改善案の設計、プロジェクトの推進管理の3つに整理できます。

  • 現状業務の可視化:業務フローや処理時間、担当ごとの工数を洗い出し、見直し前の数値を取る
  • 改善案の設計:他社や公的機関の事例を参考に、複数の案を比較できる形にする
  • プロジェクトの推進管理:部門をまたぐ調整、進捗管理、論点の整理を担う

設計の考え方やフレームワークの使い分けは、BPRフレームワークの代表的な手法と進め方で整理しています。依頼先の種類や選び方は、BPRコンサルティングの依頼先の選び方が参考になります。

フリーランス専門家の関わり方

フリーランスの専門家は、業務分析・要件整理・PMOなど特定の工程を、準委任契約で担う形が一般的です。

フリーコンサルの案件は約70〜80%が準委任契約とされ、準委任は業務の遂行に対して報酬が発生し、成果物の完成義務は負いません。契約期間は3〜6カ月が一般的で、更新を繰り返すケースが多いと紹介されています(出典:コンサルチョイス「フリーコンサルの契約形態ガイド」)。発注する側から見ると、成果物の完成を求めたい業務なのか、期間を区切って推進を任せたい業務なのかで、契約の形を選ぶ必要があります。契約形態ごとの違いは、フリーコンサルの契約形態の違いで詳しく解説しています。

大手企業や上場企業は、与信、購買規定、機密保持、請求処理の都合から、フリーランス個人と直接契約せず、エージェントなどの法人を挟む3者間契約を採るケースが多いとされています。法人を挟むと仲介手数料がかかる一方、契約内容の認識相違を防ぎやすいと説明されています(出典:顧問バンク「フリーランス契約前に!個人事業主への業務委託で最低限知っておくべきこと」)。フリーランスの側からは、独立コンサルタントの案件獲得やPMO案件の探し方の記事で、案件に参画するまでの流れを確認できます。

フリーランスの専門家に任せる場合も、方針の決定と現場への定着は社内の役割です。外部の力は、経営層の関与、現場の巻き込み、成果指標の設定という3条件を整える補助として使うと、成果が出た事例に近い形で進められます。業務委託契約の条項や秘密保持の扱いは、弁護士など法務の専門家に確認することをおすすめします。

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