BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)を進める際は、ECRSやBPMNといった代表的なフレームワークを、目的や工程に応じて使い分けることが欠かせません。本記事では、BPRの基本的な考え方から、現場でよく使われる4つのフレームワークの特徴、実際の適用手順、そして現場に定着させるうえでの注意点までを整理して解説します。
BPRフレームワークとは?代表的な手法と失敗しない進め方を解説
BPRとは何か
BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)とは、既存の業務プロセスを部門横断で抜本的に見直し、コストや品質、スピードといった経営指標に直結する形へ再設計する経営改革の手法です。
1990年代に米国のマイケル・ハマーとジェイムズ・チャンピーが提唱した概念が起点とされており、特定の部署内で完結する改善ではなく、複数の部門やシステムをまたぐプロセス全体を対象にする点が特徴です。単なる業務のスリム化にとどまらず、「なぜこの業務が必要なのか」という前提から問い直し、必要であれば業務そのものをなくす、あるいは組織の役割分担ごと変えるという踏み込んだ見直しを行います。
こうした抜本的な見直しへの関心が高まっている背景には、専門人材の不足という構造的な要因もあります。戦略・DX・IT・データといった高度人材は全体的に不足しており、IT人材だけでも2030年時点で国内約79万人不足すると見込まれています(出典:コンサルGO)。限られた人員で成果を出すためには、個々の作業を頑張るだけでなく、プロセスそのものを効率的な形に作り変える発想が欠かせません。BPRが注目される理由の一つはここにあります。
業務効率化との違い(抜本的な見直し)
業務効率化が特定の作業や部署の中で無駄を省く部分的な改善であるのに対し、BPRは複数部門にまたがるプロセス全体をゼロベースで設計し直す点が異なります。
総務省「令和3年版情報通信白書」では、アナログの情報をデジタル化する「デジタイゼーション」、個別の業務プロセスをデジタル化する「デジタライゼーション」、そして組織横断でプロセス全体を作り変える取り組みを「デジタル・トランスフォーメーション」として整理しています(出典:総務省 令和3年版情報通信白書、2021年)。この整理に沿っていえば、日常的に語られる「業務効率化」の多くはデジタイゼーションやデジタライゼーションの範囲にとどまります。一方でBPRは、承認フローの見直しや部署間の役割分担の変更まで踏み込む点で、プロセス全体を対象にするデジタル・トランスフォーメーションの考え方に近い取り組みだといえます。
たとえば「申請書のフォーマットを見やすく変える」のは業務効率化ですが、「そもそも申請という工程自体が必要かどうかを見直し、承認ステップを二段階から一段階に減らす」のはBPRの発想です。どちらが正しいというより、対象範囲と踏み込みの深さが異なると理解しておくとよいでしょう。

BPRで使われる代表的フレームワーク
BPRの現場では、現状分析から改善案の設計・実行までの各工程に応じて、SWOT分析・BPMN・ECRS・シックスシグマ(DMAIC)という4つのフレームワークを使い分けるのが一般的です。
フレームワーク | 主な用途 | 適用フェーズ |
|---|---|---|
SWOT分析 | 内部の強み・弱みと外部の機会・脅威を整理し、着手すべき領域の優先度を判断する | プロジェクト立ち上げ・目的設定 |
BPMN(ビジネスプロセスモデリング表記法) | 業務フローを標準化された記法で可視化し、関係者間で共有する | 現状分析(As-Is)〜設計(To-Be) |
ECRS原則 | 工程を排除・統合・入替・簡素化の4つの観点で見直し、無駄な手順を削る | 改善案の設計 |
シックスシグマ(DMAIC) | 定量データに基づき、品質のばらつきや処理時間を継続的に改善する | 改善案の実行・効果測定 |
SWOT分析は、BPRに着手する前の現状把握で使われることが多いフレームワークです。自社の強み・弱みという内部要因と、市場や競合といった外部要因を整理することで、どのプロセスから手をつけるべきかの優先順位が見えてきます。
ECRS原則は、Eliminate(排除)・Combine(統合)・Rearrange(入替)・Simplify(簡素化)という4つの観点で工程を一つずつ点検していく手法です。「この作業はそもそも無くせないか」という排除の観点から検討を始めるのが特徴で、単に手順を早くするだけでなく、工程数そのものを減らす発想につながります。シックスシグマ(DMAIC)は、Define(定義)・Measure(測定)・Analyze(分析)・Improve(改善)・Control(統制)という5段階で構成され、改善案を実行した後の効果を定量的に検証し、継続的に精度を高めていく際に使われます。
ビジネスプロセスモデリング・As-Is/To-Be分析
ビジネスプロセスモデリングは、現状の業務フロー(As-Is)と改革後にあるべき姿(To-Be)を図式化して比較する手法で、BPRの土台になる作業です。
代表的な表記法がBPMN(ビジネスプロセスモデリング表記法)で、業務の開始・処理・分岐・終了といった要素を統一された記号で表すため、部門をまたいだ関係者の間でも同じ図を見ながら議論できるという利点があります。具体的な図の書き方や記号の使い方は、モデリング手法を詳しく見るで解説していますので、実際に図を書き起こす際の参考にしてください。
「受注→出荷」という業務プロセスを例に、As-IsとTo-Beの違いを整理すると次のようになります(架空の例です)。
工程 | As-Is(現状) | To-Be(改革後) |
|---|---|---|
受注 | 営業担当がメールで受注内容を確認し、Excelに手入力する | 受注フォームからシステムへ自動登録する |
承認 | 一次承認(課長)→二次承認(部長)の2段階 | 一定金額以下は一次承認のみで完了する1段階に統合 |
出荷指示 | 承認完了後、担当者が倉庫へ電話で連絡する | 承認完了と同時にシステムから倉庫へ自動通知する |
この例のように、承認ステップを見直すだけでも工程数と関係者間の待ち時間が減り、受注から出荷までのリードタイム短縮につながります。どこを「排除」し、どこを「統合」するかを判断する際には、ECRS原則の4つの観点が具体的な指針になります。

フレームワーク適用の進め方
フレームワークは単体で使うのではなく、目的設定→現状分析→あるべき姿の設計→パイロット導入→効果測定→定着化という一連の流れの中で組み合わせて使うことが重要です。
- 目的設定:経営層を交えて「何のためにBPRを行うのか」を明確にします。SWOT分析で自社の状況を整理し、着手すべきプロセスの優先順位を判断します。
- 現状分析(As-Is):対象プロセスをBPMNなどの記法で可視化し、関係者全員が同じ図を見ながら課題を洗い出します。
- あるべき姿の設計(To-Be):ECRS原則に沿って工程を見直し、排除・統合できる作業を特定したうえで新しいプロセスを設計します。
- パイロット導入:一部の部署や案件に限定して新しいプロセスを試験的に運用し、想定外の問題がないかを確認します。
- 効果測定:シックスシグマ(DMAIC)の考え方を参考に、処理時間や不良率などの数値を定点観測し、改善の効果を定量的に確認します。
- 定着化:問題があれば運用を調整し、マニュアルや研修を通じて新しいプロセスを組織全体に定着させます。
BPRの対象がプロセス全体に及ぶほど、削減効果も大きくなる傾向があります。IPA(情報処理推進機構)が実施した官公需取引に関するBPRのフィージビリティスタディでは、契約から入金までの業務プロセスをデジタル化した場合、2,548百万円(約25.5億円)の削減効果が生じる可能性があると試算されています(出典:IPA「官公需取引におけるBPRに向けたフィージビリティスタディー報告書について」2023年11月14日公表)。対象は官公庁の調達業務という特定領域の一例ですが、部分的な改善にとどまらずプロセス全体を見直すBPRならではのインパクトの大きさを示す例だといえます。
社内のリソースだけでは現状分析からパイロット導入まで手が回らないという場合、外部のBPR支援コンサルタントに一部の工程を任せる進め方も選択肢になります。支援する側が実際にどのような業務を担っているかは、支援者側の実務を見るで紹介しています。

BPRが失敗する典型パターン
BPRがうまく進まない典型的な要因は、目的があいまいなまま着手すること、経営層のコミットメントが不足していること、そして現場の抵抗を軽視した進め方の3つに大別されます。
- 目的があいまいなまま着手する:「とりあえずシステムを入れ替える」といった手段が先行し、何を改善したいのかが関係者の間で共有されないまま進んでしまうケースです。
- 経営層のコミットメントが不足している:部門をまたぐ調整が必要な場面で経営層の後押しがないと、抵抗の強い部門の反対で計画が骨抜きになりやすくなります。
現場の抵抗を軽視した進め方
新しいプロセスの設計を終えただけで満足し、現場への説明や巻き込みを後回しにすると、運用が始まっても定着せず、元のやり方に戻ってしまうケースが目立ちます。
コンサルタントの歩み編集部が独立系のBPR支援コンサルタント複数名に行った取材でも、設計段階から現場のキーパーソンを巻き込み、変更の理由を丁寧に共有しているプロジェクトほど、稼働後の定着に至りやすいという声が共通していました。逆に、経営企画部門やコンサルタントだけで設計を完結させ、現場には完成形だけを説明したケースでは、表向きは新しいプロセスの運用が始まっていても、実際には旧来のやり方が非公式に併用され続けてしまう例も見られるとのことです。
現場の抵抗を軽視しないためには、設計が固まってから説明するのではなく、As-Isの可視化段階から現場の担当者にヒアリングを行い、変更後の作業がどう変わるのかを具体的にイメージできる状態にしておくことが有効です。

まとめ
BPRは、単なる業務効率化とは異なり、SWOT分析・BPMN・ECRS・シックスシグマ(DMAIC)といった複数のフレームワークを工程ごとに使い分けながら、プロセス全体を抜本的に再設計する取り組みです。フレームワークの選び方だけでなく、現場を巻き込みながら定着させるところまでを見据えて進めることが、BPRを成果につなげる鍵になります。
出典・参考情報
- 総務省「令和3年版情報通信白書」(2026-09-09参照)
- IPA(情報処理推進機構)「官公需取引におけるBPRに向けたフィージビリティスタディー報告書について」(2026-09-09参照)
- コンサルGO「PMOフリーランスの仕事内容」(2026-09-09参照)
本記事は2026年9月時点の情報に基づいています。最終更新日:2026年9月9日
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